第一回SWN試作
しばらくして。
「……悪鬼は退散。さすが春日さんよね」
そう落ち着いた声が告げた。
麻美はそちらのほうを向く。
すらりとした女性がノートPCの画面を見ている。
「じゃあ、合格ですか……?」
おそるおそる聞く。
内心、そんなわけないだろうと思いながら。
女性は麻美のほうを見た。
「これが実戦だったら、あなたは死亡してるか捕虜になっているかのどちらかよ。春日さんや池上君たちには合格点をつけるけど、あなたには無理」
「でも、敵側は先輩たちで構成されてるんですから、この演習場のことは知りつくしていて、それで後方支援部隊のほうを襲うなんて」
「敵のほうに地の利があるのも、後方支援部隊のほうを狙うのも、よくあること。言い訳にはならないわ」
それはたしかにそうであるのだが、しかし先輩相手にどこに隠れたら見つからないというのか。
「わかった? 返事は?」
「……はい、笹原教官」
「結果、後方支援部隊は壊滅。被害総額を計算したら、鈴村さん、あなたにどんな顔をするでしょうね?」
うっ、と麻美はうめいた。
商学科二年の鈴村の細長く優美な指先が計算機をたたき、費用がはじきだされ、そのあと美人と評判の顔が惜しげもなくしかめられる。
その姿が、頭にはっきりと浮かんだ。
胃がまた重くなった。
身体を見れば、服に赤いものがべったりとついている。
さっき麻美に対して放たれたものだ。
これが実弾だったら、死んでいたかもしれない。
「これが演習で良かったわね」
麻美の考えていることを読んだように、笹原が言った。
「はい」
肯定するしかない。
合格点をもらえないことも。
しかし、落第は困るので、次に向けてがんばるしかない。
とにかく勉強だ。
まわりでは後方支援部隊の隊員たちが片づけている。
「おい、榊、おまえも手伝え」
国重が無表情で声をかけてきた。
彼は情報機器科二年の首席だ。
それなのに、今回のオペレーションでは自分のせいで敗戦してしまった。
その服にも赤い塗料がついている。
「了解」
うなだれつつも麻美は片づけを手伝う。
そして、片づけ終わると、部屋から撤収する。
建物からも出ると、ノートPCを手に持ったまま立ち止まり、あたりを眺める。
ここは国立の士官学校の演習場だ。
麻美が生まれるまえ、霊的な存在がはっきりと眼に見える形で出没し害をなすようになった霊的大異変があった。
その大異変により、現在では異能者と呼ばれている特殊な能力の素質を持つ者が能力を開花あるいはさらに強くするようになった。
害をなす霊的な存在に対抗するために、国は異能者狩りとも呼ばれる異能者確保を行ったのだが、それに反撥して、異能者を有する対抗組織が誕生した。
国とその対抗組織の争いが、各地で起きている。
国としてはその対抗組織にさらに対抗するための人材が必要となり、その養成学校を設立した。
それがこの学園である。
麻美は軍事策略科の二年生だ。
しかし、自分はまだまだだ。
そう思いながら、麻美は歩きだした。