第一回SWN試作
激震。
ただし、それはノートPCの画面の中のことだ。
榊麻美の今いる部屋は少し揺れた程度である。
部屋といってもコンクリート打ちっ放しの殺風景な空間で、もともとあった家具は机だけで、そこに麻美たちが機材を運びこんだのだった。
『指示を願います』
スピーカーから池上のおさえた声が聞こえてきた。
池上は今回のオペレーションの実働部隊の隊長である。
麻美よりも二回りぐらい大きい、鍛えあげた、たくましい身体の持ち主だ。
その池上は今、ノートPCの画面の中、激震の中にいる。
麻美は実働部隊が送ってくる画像を確認する。
やはりコンクリート打ちっ放しの殺風景な室内、その奥にいて激震を起こしているのは式神か。
「春日さん、祝詞をお願いします」
指示を出した。
春日もノートPCの画面の中にいる。
実働部隊の中では、ひとり異質だ。
白いきものに、紅い袴、長い黒髪はうしろでひとつに束ねられている。
その見た目どおり、巫女である。
異能者だ。
「他の人たちは春日さんの護衛をお願いします」
異能者は貴重な存在である。
一回のオペレーションに同行させることができるのは、たいてい、ひとりだ。
あとは霊力は持たないが実戦に向けて鍛錬している者たちと、そして、麻美のような後方支援部隊の者たちである。
「破魔矢を使ってください」
実働部隊の隊員の中には弓道の心得のある者もいる。
当人は霊力を持たないが、破魔矢には霊力が宿っているので、的中させれば効力を発揮する。
ただし、ただの矢でなく、霊力の宿った破魔矢となると、高価な代物である。
ゲームのように何本も射ることはできない。
放ったものを回収したいところだが、戦っているあいだにそれをすることは難しいし、回収したところで、霊力は落ちている。
それに。
麻美の頭に、今回のオペレーションの経理担当の鈴村弥生の顔が浮かんだ。
無駄に高価なものを使えば、彼女にしかめ面されるだろう。
それをつい想像し、胃のあたりが重くなった。
だが、今は費用よりも人命を優先しなければならない。
「それから、池上さん、敵側の術者を捜してください」
『了解』
敵側の術者、異能者は、おそらく陰陽師だ。
正直、うらやましい、と麻美は思う。
陰陽師は、攻撃系の術が多いし、さらにその術の発動まで時間がかからないものも多い。
だから、国も、その対抗組織である敵側も、陰陽師やその素質のある者を血眼になって探している。
たとえ敵側についていたとしても、できるだけ無傷に近い状態で捕獲して、こちら側に寝返らせたい。
いっそ洗脳してでも、と思うぐらいだが、洗脳するとなぜか術者として使い物にならなくなる。
国の研究機関がそう結論を出したのだ。
しかし、結論を出すまでに、それなりのことをやったのだろうと思うと、おそろしい気もする。
国のためという大義があっても。
「なあ」
隣に立っている国重正也に声をかけられた。
「なんか、変じゃないか」
その眼はノートPCの画面に向けられている。
国重は今回のオペレーションの情報機器の担当である。
ここに運びこんだ機材をあっというまに快適に使えるようにしてくれた。
背はあまり高くなく痩身で、メガネをかけた横顔には表情がなく、冷たい印象だ。
「確認できる敵の数が少なすぎる気がする」
たしかに、と思った。
「ここの図面を見せてもらえる？」
そう国重に頼んだ。
もちろん図面は頭にしっかりたたき込んである。
しかし、頭の中のそれを想像するよりも、実際に眼で見たほうが考えるのには適しているように感じた。
国重は別のノートPCをこちらに向けた。
画面にはこの建物の立体図が表示されている。
「……まさか」
頭にひらめくものがあった。
だが、それは悪いほうのもの。
そのとき。
部屋のドアが大きな音をたてて開いた。
無理矢理に、乱暴に、開けられたのだ。
ハッとして、そちらのほうを向く。
そこに立っているのは、まちがいなく、敵側の実働部隊だ。
銃口が自分のほうに向けられるのを、麻美は見た。
逃げられない。
胸に衝撃を感じた。
撃たれたのだ。
ただし、それはノートPCの画面の中のことだ。
榊麻美の今いる部屋は少し揺れた程度である。
部屋といってもコンクリート打ちっ放しの殺風景な空間で、もともとあった家具は机だけで、そこに麻美たちが機材を運びこんだのだった。
『指示を願います』
スピーカーから池上のおさえた声が聞こえてきた。
池上は今回のオペレーションの実働部隊の隊長である。
麻美よりも二回りぐらい大きい、鍛えあげた、たくましい身体の持ち主だ。
その池上は今、ノートPCの画面の中、激震の中にいる。
麻美は実働部隊が送ってくる画像を確認する。
やはりコンクリート打ちっ放しの殺風景な室内、その奥にいて激震を起こしているのは式神か。
「春日さん、祝詞をお願いします」
指示を出した。
春日もノートPCの画面の中にいる。
実働部隊の中では、ひとり異質だ。
白いきものに、紅い袴、長い黒髪はうしろでひとつに束ねられている。
その見た目どおり、巫女である。
異能者だ。
「他の人たちは春日さんの護衛をお願いします」
異能者は貴重な存在である。
一回のオペレーションに同行させることができるのは、たいてい、ひとりだ。
あとは霊力は持たないが実戦に向けて鍛錬している者たちと、そして、麻美のような後方支援部隊の者たちである。
「破魔矢を使ってください」
実働部隊の隊員の中には弓道の心得のある者もいる。
当人は霊力を持たないが、破魔矢には霊力が宿っているので、的中させれば効力を発揮する。
ただし、ただの矢でなく、霊力の宿った破魔矢となると、高価な代物である。
ゲームのように何本も射ることはできない。
放ったものを回収したいところだが、戦っているあいだにそれをすることは難しいし、回収したところで、霊力は落ちている。
それに。
麻美の頭に、今回のオペレーションの経理担当の鈴村弥生の顔が浮かんだ。
無駄に高価なものを使えば、彼女にしかめ面されるだろう。
それをつい想像し、胃のあたりが重くなった。
だが、今は費用よりも人命を優先しなければならない。
「それから、池上さん、敵側の術者を捜してください」
『了解』
敵側の術者、異能者は、おそらく陰陽師だ。
正直、うらやましい、と麻美は思う。
陰陽師は、攻撃系の術が多いし、さらにその術の発動まで時間がかからないものも多い。
だから、国も、その対抗組織である敵側も、陰陽師やその素質のある者を血眼になって探している。
たとえ敵側についていたとしても、できるだけ無傷に近い状態で捕獲して、こちら側に寝返らせたい。
いっそ洗脳してでも、と思うぐらいだが、洗脳するとなぜか術者として使い物にならなくなる。
国の研究機関がそう結論を出したのだ。
しかし、結論を出すまでに、それなりのことをやったのだろうと思うと、おそろしい気もする。
国のためという大義があっても。
「なあ」
隣に立っている国重正也に声をかけられた。
「なんか、変じゃないか」
その眼はノートPCの画面に向けられている。
国重は今回のオペレーションの情報機器の担当である。
ここに運びこんだ機材をあっというまに快適に使えるようにしてくれた。
背はあまり高くなく痩身で、メガネをかけた横顔には表情がなく、冷たい印象だ。
「確認できる敵の数が少なすぎる気がする」
たしかに、と思った。
「ここの図面を見せてもらえる？」
そう国重に頼んだ。
もちろん図面は頭にしっかりたたき込んである。
しかし、頭の中のそれを想像するよりも、実際に眼で見たほうが考えるのには適しているように感じた。
国重は別のノートPCをこちらに向けた。
画面にはこの建物の立体図が表示されている。
「……まさか」
頭にひらめくものがあった。
だが、それは悪いほうのもの。
そのとき。
部屋のドアが大きな音をたてて開いた。
無理矢理に、乱暴に、開けられたのだ。
ハッとして、そちらのほうを向く。
そこに立っているのは、まちがいなく、敵側の実働部隊だ。
銃口が自分のほうに向けられるのを、麻美は見た。
逃げられない。
胸に衝撃を感じた。
撃たれたのだ。