時をかけた跡に残るモノ
「あなたの未来を見てもらって来て」
口がポカーンと開いた。今時預言者とかいるのかと、それを信じている人間がいるのかと、一個人ならまだしも、組織単位で迷信を信仰している人たちがいることに驚いた。
相手はいたって真面目に言った。あたかもそれが自然の摂理、日常的、おばあちゃんの知恵袋を借りるかのごとく言い放った。
研究室にいる他の人も特に不思議がっていない。ちょっと焼きそばパン買って来いと言われた哀れなパシリを見るような目で僕を見ている。
なぜ僕を見る?今おかしなことを言ったのは僕の前のコイツなのに。それとも何か、僕だけ何かを知らないのか。これはドッキリでどこかに隠しカメラでもあるのだろうか。いや、それにしても周りの連中の芝居が下手すぎる。僕を哀れむような目で見ずに、真剣な顔で見るか目を合わせないはずだ。それともこう考えることを予知しての作戦なのか。辺りを見回しても仕掛けらしいものは見当たらない。挙動不審な僕を頭がおかしくなった人を見るかのような哀れな視線で見ている。待ってくれ、その視線で見たいのは僕のほうだ。
「言ったこと理解できたかしら。そう難しいこと言ったつもりはないんだけど。それはそうと早めに行ってね。彼は宿舎棟の風呂場にいるから。」
さあ行った行った、と背中を叩かれながら研究室を退室させられた。
未来を見ることができるその人は、数年前に何かを悟ったらしく、風呂場に入り浸っているのだとか。
なぜ風呂場なのか、そこまで風呂が好きなのかはわからないが、しょっちゅう風呂に入っていて、風呂場に行けば大抵会えるようなのだが。
まるでどこかの漫画の女の子だ。
宿舎棟に行くには校舎棟から川を越えて行く必要がある。
川を基準にしてほぼ線対称の位置にあるが、川を渡る橋へは少し遠回りしないといけない。道のりは1kmくらいだろうか。歩いて15分ほどで行くことができる。
この宿舎は、主に遠方から教員として仕事している人達が衣食住を行う施設として使われている。各部屋にはよくワンルームアパートにあるような小さいバスルームがあるが、それとは別に、不特定多数が同時に入浴できるような風呂場もある。
そこにその人はいるようだ。
作品名:時をかけた跡に残るモノ 作家名:谷口@からあげ