時をかけた跡に残るモノ
僕には未来を見る能力などない。
かと言って魔法や念力を使えるわけでなく、ただの一般人。ミジンコ並みに普通の一般人なのだ。
上空から見た人間の集団を個々人で判別することはない。ひとつ、又は複数の人間の集合、塊として判断するように、僕はいたって普通の、大多数の一般的な人間なのである。他の人がなんと言おうと、僕はそのつもりだ。
もし、そんな能力が僕に備わっていたら、存分に悪用するだろう。
競馬でどの馬が鏡の前に一番乗りするかを予見したり、人生のピンチを予見して、それの対処法を時間をかけて考慮して良い結果を多くもたらそうと行動できる。
それは、その他大多数の今を生きる一般人の方々に対しては下劣で非道な不正であり、それを自分以外の大多数の普通の人間に知られてしまえば、羨望と嫉妬の眼差しで見られ、人権をも無視してでも善用悪用問わず利用しようとする人物が現れるかもしれない。
そうなってしまわない為に、その能力のことを黙秘し続ける義務がある。そうなってしまえば、世の中には存在が知られない。存在を知ることをできなければ、存在していないことと同じことになる。
ツチノコはいるとされながらも大多数の人間の目に触れないために、存在していないと思う人が大多数で、存在していると思う人、見たという人が極少数しかいない。
テレビという大多数が情報を共有できるメディアでさえ、その存在を伝えることは未だにできていない。
そのせいで大多数の人間から存在していないモノとして認識されている。
大多数の人間が目の当たりにできて初めて「存在する」ということになるのだから。
だから、僕はそんな能力を持った人間がこの世にいるなんて思わなかったし、よく読むファンタジー小説の中だけに存在するものだと思ってきた。そしてこれからもそう思って生きていくつもりだった。
でも、そうは問屋が卸さなかったらしい。
なぜなら、僕のところに突拍子もない作業命令がきたのだから。
作品名:時をかけた跡に残るモノ 作家名:谷口@からあげ