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君と僕とあの夏の日と

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そんな理桜の意図する所を理解したのか、ユマはいいよ、と一言告げて隣に置いてあった鞄を膝の上に持ち直す。

「ありがと」

ひさしぶりだね、ほんと。
小さい頃から飽きる程行ってその景色は目を瞑っても思い出せるくらいの公園にただ行くだけなのに、
なぜか初めて行く場所のように鼓動が高鳴るのを感じる。
ユマも、こんな気持ちなのかな?
だったらいいな、と心のどこかで思う。
ポケットに手を突っ込んでウォレットチェーンに繋がった定期入れを出した。
真新しいそれから覗く定期には自宅の最寄り駅と学校の最寄り駅が表示されていて、
徒歩通学しか知らなかった理桜はなんだか少し背伸びをしたような気分になる。
そういえば、表示されている駅以外で降りるなんて初めてだ、と思うとそれだけでワクワクする自分がいた。

次は××駅、降車の方は〜

控えめの音量で車内アナウンスが流れる。
ふと後ろの窓を見やれば、次第に緩やかになるスピードで薄暗いプラットホームが近付いてくる。
完全に電車が止まってしまう前に、隣に無造作に置いた鞄を肩に掛けると、先に立ち上がっていたユマに続く。
無人駅に電車が止まった、降りるのはどうやら自分達だけらしい。
少しの間があって、心なしか重めの音を立てて開いたドアからホームに降り立とうとした瞬間、目の前に手が差し出された。

「危ないから」

とユマは一言告げて、手につかまれとでも言いたげに差し出してくるので素直に手を重ねると、
すぐにぎゅ、と握り返されてゆっくり前に引かれる。
早くもなく遅くもないその速度にまた彼なりの優しさが感じられてでも気付かれないように下を向いたまま笑みをこぼした。
そういえば彼も片目だけの視界だったんだな、と今更ながらに思い出す。
この最初の違和感を彼は何年も前に経験していたんだ、となんだか仲間を見つけたような嬉しい気持ちになった。

「よろしく、先輩」

期間限定だけど。
ユマは少し驚いたような表情になって、でもすぐにあの柔らかな笑顔になった。
なんだか自分の方が恥ずかしくなってしまって、一時的に繋いだ手を離そうとしたけれど、
なぜかユマはそれを許してくれなかった。
なんか恥ずかしいよ、と小声で抵抗したけれど、暗くなってきたから危ないだろ、
と振り向いた真面目な顔に一蹴されてしまう。
作品名:君と僕とあの夏の日と 作家名:テトラ