君と僕とあの夏の日と
それに誰もいないし見えないよ、暗いから、と言った彼も少し顔が赤かったような気がするのは思い違いかもしれないけれど。
「行こう」
ユマが言った。
手を引かれるまま古びた改札を通り過ぎる。
無人駅だったら定期があっても無くても一緒だな、となんだかちょっと馬鹿馬鹿しい気持ちがしたけれど、
繋いだ手と逆の手に持った定期はそこにいない駅員に見せるかのように持ち上げた。
パチパチと音を立てる蛍光灯に反射して表面が白く光ったのがやけに印象的だった。
「ちょっと涼しくなったね」
理桜は1歩先くらいの距離を歩くユマに言った。
日が落ちたからな、と彼は言って繋いだ手に少し力が込められたような気がする。
実際は麻酔が完全に切れてズキズキと痛みが走っていたけれど、ユマと同じように世界が見えてるんだ、
と思うとなんだか彼との新しい繋がりを見つけたような気がして、その痛みも自然と我慢出来る自分がいた。
見上げれば東の空が徐々に青から黒へと変わり始めて、その中にキラキラと星がいくつも散らばっている。
片目だけで急に二次元のようにぺたりと見える世界にも慣れていけるような、そんな気がした。
作品名:君と僕とあの夏の日と 作家名:テトラ