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君と僕とあの夏の日と

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生徒会は今の時期忙しくなかったっけ、とか色んなことが頭を掠めたけれど、
この暑さのせいでどこかへ溶けて消えてしまったようだった。

「ありがと」

ちょっと気恥ずかしくなって言ったはいいが理桜は俯いてしまう。
じゃあ、今から10分後な、と言って彼は足早に教室を去っていった。
ふ、と空気が少し動いてそこから風が起こる。
ここからは見えない廊下に真新しい革靴の音が木霊していく。

「たまには、いいかも」

いつしか周りに紛れて薄れてしまった幼なじみという近かったはずの距離をまた再確認するような感覚。
ちょっとむず痒いようなそれでいて微笑ましいような懐かしさがこみ上げて、
理桜は時計を確認すると鞄を持って教室を後にした。






scene:2

「なんか、理桜らしいなそれ」

隣に座るユマはそう言って笑った。

社会人の帰宅時間より少し早めで人のまばらな車内には、昼間より幾分柔らかな光の夕日が斜めに差し込み、
辺りをオレンジ一色に染め上げている。
長い一列の座席に自分達以外誰も座っていないのをいいことに、
部活の用意が入った大きめの鞄は自分の座る隣に投げ出すように置いた。
カタン、カタンと心地よい揺れに身を委ねながら窓の外を見れば、
同じく夕日に照らされた海がオレンジ色の光を反射しているのが遠目に見える。
その上に大きく斜めに傾いて位置する太陽が視界の隅に入り、思わず眩しさに片目をひそめた。

「でもさ、結構落ちてんだ。出たかったからさ」

理桜は呟いてふぅ、と肩を竦める。

あの後、教室を出て真っ直ぐに校門に向かった。
約束の時間よりも数分早かったのは知っていたので待つのは何ともなかったのだが、
遠くから聞こえる部員達の声には耳を塞ぎたくて仕方なかった。
どうした?理桜
掛けられた声にびっくりして顔を上げれば、いつのまにか帰り支度を整えたユマが来ていて、
知らぬ間に深く俯いてしまっている自分がいたことに気付かされた。
ううん、なんでもない
取り繕うように曖昧な笑みを浮かべた自分に、暑いから早く電車に乗ろうと敢えてこちらを見ずに言ったのは、
彼なりの優しさなんだろうな、と忘れていた懐かしさのようなものがこみ上げる。
駅までの道はお互い無言だった。
ギラギラと照りつける太陽に気力が根こそぎ奪われるような感じがしたけれど、不思議と居心地が悪いとは思わなかった。
作品名:君と僕とあの夏の日と 作家名:テトラ