like a LOVE song
倖雄は唸った。偏見が僅かながらないわけではないにしろ、嫌悪からそれを遠ざけているわけではなくて、あまり手に当たらないから、あまりライトノベルには呼ばれることがないからだった。きっかけがないから読まないだけだ。もしかすると、彼が思っているほども悪いものでもないのかもしれない。
「確かにそうかもしれない。今度買わせてもらうよ、タイトルなんていうの」
彼はそう尋ねたが、明里はとんでもない、というように手を振って、
「いえいえ、持ってるんで、どうぞ」
と鞄から彼女の書いた本を取り出した。
「え、いいの」
彼の財布は確かに小遣いがあまり無く、余裕と言える余裕は無かったが、かといって文庫一冊買えないほど無いわけでもない。
「いいんですよ。先輩が早起きだから三文です」
一瞬狐につままれたような顔をした倖雄がくすくすと笑い出すのにあわせて彼女も笑った。彼女の望んだ笑顔がそこにあった。
「じゃあ、遠慮なく。ありがとう」
「いえ。続刊も出てるんで、もし興味があったら言ってください。もちろん早起きしたらですけど、プレゼントしてあげますよ」
また二人で笑う。あまり声を出しては注意が飛んでくるので、控えめな笑い声だった。
春休みがあけて、時間が動き出す。新しい出会いに、希望があろうとなかろうと。
作品名:like a LOVE song 作家名:能美三紀