小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

like a LOVE song

INDEX|15ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 それが生き返ったスナイパーが用意した新しい武器らしかった。狙撃手を殺したつもりで、彼がしたことは精精武器を代えさせる程度のことに過ぎなかったようだ。アーチャーとなったそれは、いまだ彼の心臓を狙っているに違いない。
 それでもいずれ折り合いはつくだろう、と彼は思った。時間は心の万能薬になりうる。切り離そうとした腕の壊死さえなければ、きっとアーチャーを受け入れられるときも来よう。その時まで、この弓を曳く痛みは彼に付きまとう。それも受け入れるしかないのだろう。
 カラフルなその手紙を見ながら、彼はそう思った。

 ようやく必要なものはすべて引っ張り出せたと思う。卒業式からバタバタと引越してしまったので、きっちりと別れを告げていない友人は大勢いた。メール程度はアドレスの分かる限り出したのだが、恨み言を言われてはどうしようもないな、と倖雄は自嘲した。
 彼の住んでいた町とは比べ物にならないくらい東京は人と建物が多かった。これからこの町で勉学に励むことを思うと、どうにもならない不安が重く彼にのしかかった。
 だから、そうして暮らしはじめて少し経って舞い込んだ愛の手紙に、少しばかり救われたような気がした。
「拝啓
 もうこっちは大分春めいてきているけど、そっちはどうかな。別れたのはほんの少し前だけど、いきなり風邪ひいたりはしてないかい。
 三月も俺も充分すぎるくらい元気だ。時たま豆腐を買いに来るバカップルほどじゃないが。
 さて、本題。あえて言うまでもないんだけど、時たまメールだか電話だかはして欲しい。これでも俺、お前のことは大切な友人だと思っているんだ」
 友人、という字だけ少し歪んでいるのを除けば概ね綺麗な字だった。
「まあ勿論、ずっと連絡とり続けろなんていうわけじゃない。定時連絡でなくてもいい。暇に、思い出したときに、何の遠慮も要らないから連絡をしてくれないかな。
 勝手な申し出かもしれないけど、コレだけは伝えたかった。メールでも電話でもなくて、あえて手紙で。口では恥ずかしくていえないからな。
 じゃあ、風邪とか結核とかやらないように。案外交通事故とかの頻度も高いから車、バイクにも要注意。敬具」
 きっちり揃った文字で綴られたそれには、愛と三月の連名で住所が記されている。高校を卒業して、彼らは籍を入れた。今は愛の両親の豆腐屋を継ぐ修行中らしい。彼らは田舎に残ったまま生きていくそうだ。倖雄とは違って。
 倖雄は東京の大学を受験して、当然のように合格した。三月ほどではない成績の彼も、決して勉強ができないと言うわけではない。平均ラインから見れば遥か遠く、高い位置に立っている。
 残った彼らと、旅立った倖雄。分かたれた道だが、それでも彼らはお互いに失くすのが惜しい友人だったのだ。
 まだ落ち着けない、ダンボールがむき出しの我が家で彼は思った。次に会えるのはいつになるのだろう。
 そのときはきっと、あの夫婦がつくった豆腐を食べてやるのだ。
作品名:like a LOVE song 作家名:能美三紀