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式部の噂

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猛さん




―…コンコンコン…


柔らかい光がカーテンの裏から漏れてくる。
今朝は日の光が妙に眩しい。

低血圧の私は不機嫌に寝返りをうった。


「式部起きて」

誰かが私をよんでいる。
母さんでないことは確かだ。
母さんは寝坊は自己責任だと日々豪語しているから。

「式部、ドア開けちゃうよ」


(ん…)


眠い…でも本当にやけに日がさしこんでくるな。

嫌がおうでもいい加減目が覚めてくる。



ぱっと目を開けると見慣れない天井が目に入った。そこで(あぁ、ここは父さんの家だ。)とやっと気付く。


「式部ちゃん」

「はぁどうぞ」


ぼうっとする頭で適当に返事をした。
ガチャッとドアが開く。

私はカーテンを開けてびっくりした。


「父さん海!!海が見えますよ!」


きらきらと眩しく私を起こしたのは海だったのか。下手な目覚ましよりずっと効果的だ。


「うん、すぐ近くなんだ。…あとごめん、式部ちゃん。岬さんはご飯の準備に行っちゃったよ」



(…え?)





「!!」




たっ…猛さん!!!


(ぎゃーっいやーっ)


こんな寝癖で顔も洗ってなくておまけにノーブラなのにー!!



…私はわりと胸が大きい方なのでノーブラだとバレバレになってしまう。

半泣きで猛さんをみやると、後ろを向いて部屋を出ていきながら、「ご飯にしようか。」と呟いていた。


(あぁ…気を使わせてたらどうしよう…)


でもまぁ私が振り返ったのなんてあっというまだったよね、と自分で自分を慰める。






なんとなくさっきの出来事が悲しくて私はのそのそと準備をした。…そしてのそのそとリビングへ歩いていく。

顔を上げると水色のポロシャツを着た父さんが爽やかに立っていた。


「さぁ、式部。今日は海に行こうか!いてっ」

父さんは爽やかな笑顔に似合わずおかしな足取りをしてガッと柱に足を打ち付けた。

膝を抱えぴょんぴょんと飛びはねている。

猛さんはいつものことだとスルーしていた。かちゃかちゃと皿を並べ、父さんに箸配りを押し付けている。

「式部日焼け止め塗るんだよ。わ!痣になってるよほら猛!」

「それ一昨日溝にはまった時のでしょう。式部ちゃん心配しなくていいからご飯食べなよ。」

父さんがあまり痛そうだったのでうろうろとしていたのを気遣ってくれたらしい。
なんでか嬉しい。
首が勝手に回ってちらっと猛さんを見てしまう。

…でも猛さんはもう父さんの方を向いていた。

よかったような、残念なような。

父さんは「本当に痛いんだ!ほらーこれ見てごらん」と叫ぶ。

猛さんは「あーそりゃ可哀想に。」と足を見ずに答えていた。
なんとも適当ないいぐさだ。

私は脳をしゃっきりさせようと頭をぶんぶん振った。



…それから、私も準備に加わってやっとこさ3人で食卓についた。
猛さんはエプロンをつけている。どうやら食事はみんな猛さんが作っているらしい。


「そいえば式部、水着持ってきたの?」

父さんが目玉焼きの黄身めがけてゆっくりと醤油をかけながら、けろっと聞いてきた。

年頃の娘に対する羞恥心とかは全然ないようだ。

私は仕方なしに頭を横に振る。

だって海がこんな近いなんて聞いてないもの。

「足浸けるだけでも楽しいよ。ね、式部ちゃん。」

猛さんが間髪容れずに言った。

父さんは「えー式部の水着姿見たかったなぁ…。」と呟いた。

その台詞で私ははっと気付いた。

父さんは気にしてないんじゃなく、私をまだ小さな子供と同じ様に扱っているのだ。
ずっと会ったことのなかった単なる女子高生を、ちゃんと子供として見ている。

ただ、歳に合わせた対応が下手くそなだけなんだ。


…猛さんは「変態親父…」と囁いたけど、私はにこにこしていた。

子供みたいな父さんは、やっぱり大人なのだ。


私は猛さんの作った味噌汁をくいっと飲み干した。
低血圧なのに朝から爽やかだった。


作品名:式部の噂 作家名:川口暁