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本庄ましろ(公夏)
本庄ましろ(公夏)
novelistID. 5727
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最高の思い出を

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『幸太、危ないって。』
『大丈夫、ちょっとのぞくだけ。』
『……覗き込みすぎて落ちないでよ。』
『ばっか、そんなアホなことするかよ。』
『幸太はしそうだよ。』
『お前と一緒にするなよなー。』
『僕だってしないよ!!』

あの日、幸太が覗き込んでいた場所。
あの時は、酷く高く見えたそれは、今の僕にはなんてことない高さだった。
もちろん僕の身長より高いけれど、あの頃見たより、ずっと低い。
一体これってなんなんだろう?
今の僕でもよくわからなかった。
それでも、あの時中を覗き込んでいた幸太の姿が鮮明に甦る。
楽しそうだった。
落ちたりなんてしないと言ったくせに、一番上まで上った幸太が一瞬バランスを壊したから、僕は物凄く慌てるハメになった。
結局なんでもなかったみたいに幸太は降りてきたけれど、それを見てたから僕は怖くなって、一番上までは上らなかった。
意気地なし、って笑われたのを今でも覚えている。
今の僕なら、簡単に上れる。
でも、それはしなかった。
それをしたら、幸太との思い出が書き換えられてしまうような、そんな気がして。

僕はまた、足を進めた。




『……帰る?』
『うん。……もう、来ない。』
『なんだよ、それ。』
『……もう、遊べなくなると、思う。夏休み、もう終わりだし……。それに……お母さんに、止められちゃったんだ、幸太と、遊ぶの。』
『……。』
『……幸太?ごめん、幸太が嫌いとか、そういうんじゃないんだよ、でも、僕勉強とかもしないといけないし……この夏、幸太と遊んでばっかり、だったから……。』
『……迷惑だった、って言いたいのかよ。』
『違っ、違うよ、そうじゃなくて!!』
『俺がお前を引っ張りまわしたせいでお前は勉強ができなかったって、そう言いたいんだろ!!』
『待ってよ幸太そんなんじゃないよ!!』
『あーあー悪かったな迷惑かけてっ!!』
『幸太!!』
『もうお前となんか遊ばねえよ、ばーか!!』

そう言って、あの時この場所で、幸太は僕を突き飛ばした。
それに腹を立てた僕も、言い返すこともなく、ただ、この道を引き返した。
あの日。
もう幸太と遊べないと告げた日。
本当はあの時、僕は泣きそうだった。
幸太は僕にとって、大切な友達だった。
それなのに、突然迎えに来た母親に、もうあの子と遊ぶのはやめなさい、と言われた。
それまで僕を預けてそれきりだった母親にそんなことを言われても、いくら子供の僕でも納得なんて出来なかった。
それでも幸太にあんなことを言ったのは、母親が、幸太の家に電話すると言ったからだ。
幸太のせいで僕が勉強もしないで遊び歩いてる、って、抗議すると言ったから。
そんなの、絶対にダメだと思った。
幸太は何も悪いことなんてしていないのに。
だから僕は、幸太にもう遊べないと言った。
母親はすぐにでも僕を連れて帰ろうとしていたし、あの頃の僕にとって、母親は絶対だった。
母親に逆らうなんて、無理だと思っていた。
本当は、もっともっと幸太と居たかった。
全部が全部、悔しくて悲しくて、僕は泣きそうになりながらこの道を後戻りしたんだ。

僕は、あの日と同じように、踵を返した。



『智ー!!』
『っ、幸太っ!!』
『智、智ー!!』
『幸太ー!!』

そして僕は今、また、あのバス停に立っていた。
あの日。
僕が、街へ帰る日。
バスを待ちながら、僕は、幸太のことを思い出していた。
あの夏は、僕にとって特別だった。
何もかもが新鮮だった。
初めてこの町に来た頃は帰りたくてたまらなかったはずなのに、僕は帰りたくないと思っていた。
幸太がいるこの町に、ずっと居たいと、僕はそう思っていた。
でも、僕は子供だった。
どうすることも出来なかった。
そして僕は、バスに乗った。
窓の外を流れる景色を見ながら、僕が思っていたのは幸太のことだけだった。
幸太とした、色々なこと。
幸太と過ごした夏。
そのときだ。
バスの後ろから、幸太の声が聞こえた。
嘘だと思った、聞き間違いだと思った。
でも、そうじゃなかった。
僕の乗ったバスを走って追いかけながら、幸太は、僕を呼んでいた。
幸太は、笑っていた。
でも、泣いていた。
泥だらけの頬をぐしゃぐしゃにして、幸太は泣いていた。
だから、僕も泣いた。
しゃくりあげて、泣いた。
笑ったつもりだったけれど、きっと僕は笑えていなかったと思う。
走るバスの中と、外。
僕らは、泣きながら手を振った。
必死で、必死で、手を振った。
そして、幸太は言ったんだ。

『               』

……まだ、僕には行くところがある。

僕は、もう一度足を踏み出した。