最高の思い出を
『秘密基地?』
『そ。誰にも教えたことねーんだ。お前が一番。』
『……いいの、そんなところに連れてってくれて。』
『はぁ?何エンリョしてんだよ。俺が連れてくっつったら連れてく。文句あるか?』
『っないよ、ない。嬉しい!!』
ねえ、嬉しかったよ、幸太。
僕が一番だって言ってくれたこと。
『ほら智、早く来いって!!』
『だから、幸太が足はやすぎるんだよ!!』
『いーや、智が遅いだけだ。』
『絶対違う!!』
『違わない。』
『違う!!』
幸太は、本当に足がはやかった。
それは、いつも外を走り回っていたせいかもしれないね。
『ほら、ここだ!!』
『……!!』
『な?な?すっげーだろ!!』
『これ、車?』
『そ。もうずっと昔からここに置きっぱなしなんだ。』
『誰かが、捨てたんだ。ぼろぼろだもん。』
『そ。どうせ誰も乗れねーだろ。だからさ、ここが俺の秘密基地なわけ。今日からはお前にも特別にここに来ることをキョカしてやるよ』
ねえ、許可、なんてさ。
なれない言葉を使って、ふんぞり返って。
でも、嬉しそうだったよね。
僕も、嬉しかった。
嬉しかったよ、幸太。
一気に、視界が開けた。
秘密基地。
開けた草原の中にぽつんとある、ぼろぼろに朽ち果てた車。
あの日から、10年分、年をとった、秘密基地。
「幸太……。」
ぽたり、と、雫が零れ落ちた。
一粒零れだしたら、後はもう、止まらない。
まるで、どこか故障したように、ぼろぼろと涙があふれてきた。
「幸太。」
全部、歩いて回った。
幸太と思い出を作った場所は全部。
でも、どこよりも思い出が沢山あった場所は、ここだった。
いつでも僕たちはここで待ち合わせをした。
ここで遊んだ。
沢山、話した。
ずっとずっと、ここにいた。
10年だ。
あれから、10年。
「幸太、幸太……っ。」
涙が、零れ落ちる。
止まらない。
止まらない。
ぽたぽたと、雫が落ちた。
その時、だった。
「ったく、何泣いてんだよ、―――――智。」
振り返った。
そこにあったのは、ほんの少し苦く、それでも、酷く嬉しそうに笑う、姿。
「……幸、太。」
「……おう。」
「幸太。」
「おう。」
「……嘘。」
「嘘じゃねー。」
「……幻?」
「本物。」
笑って、手を取った。
「ホラ。本物だろ?」
その笑顔は、あの夏と、同じ。
「……幸、太。」
「うん。」
「……背、伸びた、ね。」
「お前もな。」
「……声、低くなったね。」
「ああ、お前も。」
「かっこよく、なったね。」
「お前は、あの頃のまんまだ。」
幸太は、そう言って悪戯っぽく、笑った。
「―――――おかえり、智。」
一気に溢れた涙で、目の前の幸太が霞んだ。
僕は、子供みたいに声をあげて泣いた。
わあわあ泣いた。
あの夏にだってしなかったくらい、必死で泣いた。
そんな僕を見て、泣き虫、と幸太が笑った。
僕は、大泣きしながら、煩い、と言った。
思いっきり涙声だった。
そのツラで言うな、と幸太がまた笑った。
大泣きしながら、僕は思い出していた。
あの夏、幸太が最後に叫んだことを。
泣きながら、それでも必死で幸太が叫んでくれた言葉を。
あの夏の、最高の、思い出を。
『10年後の8月、絶対また会おうな!!』
Fin.