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鳥の如く

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今年一月、江戸城坂下門外で老中が尊攘派の浪士に襲撃され負傷した。
老中が襲撃された理由は、幕府と朝廷を結びつけて幕府の権威を取りもどそうとする公武合体を推し進めていたからである。
そして、清州藩でも今は開国派の公武合体論が主流となっている。
それに反対する志士たちが公武合体を阻止するために京に集まってきていた。
単なる反撥ではない。
強烈な危機感があった。
昨年二月、清州からたいして遠くない距離にある島に異国の軍艦が次々に入港し、その国の兵が抵抗する島民一人を射殺した。
さすがに幕府も放置できずに退去命令を出したが、無視された。
結局、その国と対立関係にある国が退去を迫り、きかない場合は一戦も辞さないという態度に出たため、島は占領されずに済んだ。
しかし、それ以降、清州の港に様々な国の艦船が補給のために入港するようになった。
近隣の島が占領されかかった事件が起きたばかりであるので、神経を尖らさざるをえない。
もっとさかのぼれば、実のところ、清州藩では黒船が来港する少しまえから、鎖国の時代から、危機感を抱いていたのだった。
欧米列強に支配された国について知り、その二の舞になってはならない。
そう唱えたのは、藩の財政難の折に改革にあたった重臣だった。
黒船来港の四年まえには島の軍用方強化のための警備隊が作られ、黒船来港の五ヶ月まえには清州藩一門以下家臣団の沿岸八区の部署割り当てと兵備が決められていたのだった。
それに比べると、幕府は対応が遅かった。
苛立ちを感じるぐらいだ。
頼りにできない。
国のことを考えるならば、自分たちがどうにかしなければならない。
そんな想いが、胸にある。
そして、久坂はまだ年若く藩校の学生だが、清州藩の尊攘派の中心人物のひとりとして数えられている。
久坂は指導者に向いている。
だが、雑事の処理があまり得意ではない。
手助けを求める文が京から清州に届いたとき、やはりこうなったかと、寺島は思った。
「寝ている場合ではな……」
寝ている場合ではない、と言おうとしたのだろうが、途中で久坂は咳きこんだ。
苦しそうだ。
つい。
「大丈夫ですか」
そう寺島はたずねて、しまったと思った。
「大丈夫」
久坂は答えた。
その返事とは真逆で、大丈夫そうにはまったく見えない。
このひとに大丈夫かなんて聞いても大丈夫としか答えないに決まっているのに。
わかっていたはずのことであるのに、ついうっかり聞いてしまった。
作品名:鳥の如く 作家名:hujio