Transsexualism
でも、問題は寮生活だった。ルームメイトに、女だとばれるわけにはいかない。
同室になったのは、松沢優。いわゆるイケメン系の、ぱっと見にはどこにでもいそうな少年だった。
「荷物はそっちのロッカー使って。トイレとシャワーは部屋に備え付けだけど、大浴場使いたい場合は時間決まってるから気をつけるように。じゃ、これからよろしく」
気さくに握手を求められた。普通に差し出すと、怪訝な顔をされた。
「手、ちっせぇのな」
「俺、シャワー浴びてくる！」
気づかれた。そうでなくても、こんなところでも男と違う。どんなに取り繕っても、お前は男じゃないと言われているようだった。
そのとおりだ。制服を脱いでしまえば、そこにあるのは男の体ではない。鏡に映った自分の姿を見るたびに、思い出させられる。認めたくない。認めたくないのに、無理やり突きつけられる。苦しい。
「わりぃ、せっけん切れて」
突然扉が開いた。
鏡に映った自分の姿が、優の目に入った。
一滴、涙が頬をたどった。
「わりぃ」
扉は、すぐに閉ざされた。はるかは、その場に泣き崩れていた。
「その、どういうわけで男のなりなんてしてるのかわかんねぇけど、俺は……」
「俺は女じゃない。女なんかじゃない！」
泣き叫んだ。扉の向こうに、優のため息が聞こえた。
認めてもらえるはずがない。
もう、終わりだ。
「もしかして、性同一障害ってやつか？ だったら、わりぃ。安心しろ、お前は男だよ。自分がそう思ってるなら、お前は男だ。俺が保証する」
何を言うのだろう、この男は。保証されたって、自分が女であるという事実は変わらない。けれど、初めてだった。自分を男だと認めてくれた男は。心が一気に軽くなった。
「このこと、誰にも言わないでくれ」
「ああ、言わない。でも、ひとつ頼みがあるんだ。今度の日曜、ちょっと俺に付き合ってくれ」
いったいなんだろう。急に不安がよみがえった。
作品名：Transsexualism 作家名：日々夜