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大人のための異文童話集1

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ギリギリスは毎日アリのお見舞いにいきました。

それからというもの、アリはキリギリスが来ることを待ち望むようになっていました。
キリギリスはお見舞いに来ると、音楽を奏でながら、たわいのないお話をして過ごします。
アリはその音楽とお話しで心が暖かくなり楽しくなります。

そんなことが数日続き、アリの病気はもうすっかりよくなりました。
キリギリスもまた、一生懸命に働くアリの姿を見れると喜びました。

病気を明けて働きはじめたアリは、以前とは少し違って、キリギリスの音楽やお話しを楽しみに、働くようになっていました。

こうして日々が過ぎるうちに、春から夏、夏から秋とへと季節は変わり、寒い冬がもう近くまでやって来ていました。
そしていつしかアリは、キリギリスの価値観を認めてるようになっていました。


とうとう寒い冬がやって来たました。
アリはそれまでに一生懸命に蓄えた食物で不自由はありません。

しかし、それまで毎日のように好きなアリの姿を見ながら、音楽を奏でてはお話をして暮らしていたキリギリスは、冬への貯えなど何もしていなく、寒い毎日をひもじく暮らしています。

そんな姿を見兼ねたアリは、家族に相談して、キリギリスを家に置いてあげたいと話します。
しかしそれを聞いたアリの家族は

「毎日好きなことばかりして遊んでいたのだから、自業自得だ。」

と言って、まったく取り合ってはくれませんでした。
仕方なくアリは、自分の集めた食物の中から少しだけ、こっそりとキリギリスに届けては、お話や音楽を聞きました。
そんなことを続けているうちに、とうとう本格的な寒い冬がやってきたのです。

アリは振り積もった雪で外へも出られなくなりました。

どうして誰も、キリギリスのことを分かってあげないのだろう?
なぜかアリの心は痛んでいます。

アリは自分が病気の時、キリギリスが奏でてくれた音楽やお話が、何も出来なく寂しかった自分の心を、優しく暖めてくれたことを知っています。
その時からアリは、世の中には働いて食料を貯えること以外にも、それぞれに違った価値観で、違った役立ち方があると知りました。
それでもやはり、食べていかないと生きてはいけません。

今頃…キリギリスは、どうしているのだろう。
アリは外を眺めては毎日そう考えます。