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大人のための異文童話集1

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あれは、本格的な寒い冬になる前のある日のことでした。
アリがこれからのことをキリギリスに尋ねると、キリギリスは笑って答えました。

「ボクの音楽は好きだからやってるだけだよ。」
「だからボクはボクの価値観に従い、キミはキミの価値観に従えばいい。」
「価値観なんてそれぞれ違っていいのだから、選んだ違いで生じる結果は気にしてはいないよ。」

その時アリには、キリギリスの言ってることが理解出来ませんでした。
ただ、そうキリギリスが答えるのを聞いて、アリは何故だか胸の奥が熱くなって目の前がぼやけていました。

きっとギリギリスさんは食べることよりも最後まで、音楽を奏でることを選ぶのだろう。
もうすぐ側にはいなくなる気がする。
アリがそう思った時、心に寂しさを、瞳に涙を呼んでいたのでした。

外に出られないくらい、たくさん雪が降り積もってからも、暫くは、遠くの方でキリギリスの奏でる音楽が聞こえていました。

キリギリスは雪の降り積もる寒い冬でも、アリに聞こえるようにと、音楽を奏でていたのです。
アリはそんな音楽を耳にしては、何度も家族に頼みました。
何度も自分の食料だけでもを持って、家を出ようと試みました。

そのうちに、雪深い外からは音楽も聞こえなくなっていました。


そして寒い冬は去りました。
しかし、もうどこにもキリギリスの姿はありませんでした。
それでもアリは、毎日キリギリスを探し続けました。

なぜなら…
耳には聞こえなくても、アリの心の中には、いつまでもキリギリスが奏でてくれた、あの音楽が聞こえていたからです。

「ボクはキミが一生懸命働く姿が大好きで、それだけを見て暮らしたいんだ。」

そしてアリは、いまでも毎日黙々と働きながら、キリギリスが言ってくれたこのコトバを思い出すのでした。


それはいつの頃でしょうか…
他愛無くお話しをしては、楽しそうに音楽を奏でて、アリの姿をそっと見ているだけのキリギリスがいました。

そんなキリギリスの残した音楽を心に奏でながら、自分の一生懸命な姿を見せたくて働いていたアリがいました。