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大人のための異文童話集1

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たまにはポツポツと…
絶えられなくなった涙を少しだけ落としてしまいます。
そんな時には、どこからか風がやって来ては、哀しむ雲に優しく声をかけるのです。

雲さん。
どうしても哀しい時には、一生懸命に我慢して、無理に泣くのを抑えなくていいんだよ。

そんなことをすれば、いつまでも哀しみが終わらなくてあなたの涙が続くでしょう?
それなら一層のこと、あなたの感情のままに泣けばいいのです。

哀しさを溜め込んで厚くなってしまった雲さんを、私には吹き飛ばす力はありません。

だけど雲さんが素直に、哀しさで雨を降らせてしまえば、そのカラダも軽くなります。
そんなあなたの哀しさであれば、私にも吹き飛ばすことができるかも知れない。

私はいつでも、いつまでも、あなたを見ています。
あなたが泣き濡れたあとには、私の声で残った哀しみを飛ばしましょう。

するとまた、明るくなった空にはお日様が輝きます。
そうなればきっとまた、あの美しい虹を見ることができますよ。

そんな雲と風の密かなお話。
それ以来、どうしても我慢できなくなると、雲はたくさんの涙を降らせるようになりました。
雲が風を思う気持ちで一杯になって、そのせつなさでわんわんと泣いてしまうのです。

といっても、雲はいつでも泣く訳ではありません。

空に残る雲が泣けば、風はすぐにやって来ていつものように優しく声をかけます。
すると地上に溢れ落ちた雲は、そんな風の姿を見つけては、また空へと昇っていくのです。

そして空には、いつの間にか喜びに溢れたような、大きな入道雲が現れるようになるのです。
そう、いよいよ夏の訪れなのです。

梅雨。
それは寂しさを溜めた雲が、愛おしく風を呼び続ける季節のことなのです。