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大人のための異文童話集1

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第6話 梅雨物語〜雲の涙と風の声



雲はいいました。
風さん、どうしてあなたに出会ったのでしょう。
私はあなたに出会うことさえなければ、いつまでも、輝く陽の光というものを知らずにいれたのに。

そして心や気持ちが、どうしようもなく重くなれば、また、いつものように大雨を降らす。
私はそれだけでもよかったの。

きまぐれな風さん。
あの時まで私は、雨の中で消え去るように浮かんだ虹が好きでした。
なのにあなたに出会ってからは、あの夢のような虹に惹かれてしまったの。

きまぐれなあなたがあの時、優しい風さえ送ってくれなければ、私はいつまでも陽の光を知らずにいました。
そして哀しい時には、いつまでも地上に降り注いだ涙と一緒にこの身も土に隠す。

そうやって泣きながら、じっとその身を潜めておくだけだった私。

だけどあのとき…
あなたの優しい声で、私は、陽射しにかかる虹を見てしまいました。
それはそれは美しく、泣くことすら忘れてしまえるような虹を。

今ではそんな虹を、もう見ることが出来なくなることなど私には考えられない。

風さん、きまぐれでも構わない。
いつまででも、あの時のような優しい風を私に送り続けてくださいね。

それは雲のひとりごと。
哀しい思いで泣きそうになると、雲はそんなことをつぶやきながら我慢します。

そんな我慢した雲のせいで、空の様子もどんよりとするのです。