虹と蜜柑と疫病神
荒れ狂う川の流れに翻弄される体から意識を放せば、なごは実体を持たない存在に変わる。目を開けば濁った水が透けて見えて、凄まじい力をもつ水の流れも何もかもがなごの体をすり抜けていった。
ゆっくりと、静かに息を吸い込む。
吸い込んだ息と一緒に光を帯びていく。目に見えるほどの速度で輝きを増したなごは、気付けば眩いほどの光を抱いていた。
語りかけるように、なごは静かに息を吐いた。
強い光が濁流を突き抜けて空を射し、それを中心に円を描く形で光が水面や地面を這う。目を見張る速さで広がったそれは土に染み渡り、川筋に無理矢理押し込まれていた分の水が空に舞い上がった。
黒い雨雲が、風で吹き飛ばされたように消える。
やっと顔を見せたお天道様が辺りを照らす頃には、あんなにも強かった雨は小雨に変わっていた。
いつの間にか川を流れる水は透き通り、濁流に荒らされ丸裸になっていた土手を青々とした草が覆う。
日に照らされて煌く水面は、きらきらと眩い光を放つ。
久しぶりに姿を見せた青空には大きな虹が架かっていて、綿のような雲が漂うその空は目が眩むほど美しかった。