虹と蜜柑と疫病神
静かな声で言われ、返事をする気力もなくてなごは嗚咽を漏らした。悔しい。何もできない自分の無力を噛み締めて、目をつむる。
「君、彼のところに行くつもり?」
声が出ない。
「川の氾濫を止めたいんでしょう?」
息の仕方が分からない。
本当は息なんかしなくても平気な自分という存在が、悲しい。息をしないと生きていけない人たちと、一緒にいたいのに。
「方法ならあるよ」
――男の言葉が頭の中に染み込むまでに、少し時間がかかった。
ゆっくりと顔を巡らせて、男の表情を見る。笠が飛んだせいかびしょ濡れになった男の顔には変わらず皺が刻まれていて、その上を絶え間なく雨が伝うのを呆然と眺めていた。
本当のことを言っている男の目に、なごはその事実が信じられなくて首を横に振る。
どうしたらいい。
「……ただ」
方法なんて。
男が口を開く。その動きは見えているのに、音が聞こえてこない。聞きたい。聞きたくない。
頬を伝う滴のように、するりと男の言葉がなごの意識の中に滑り込んできた。
「それをしたらもう、君は皆とはお別れだ」