大魔王ハルカ(旧)
この博物館はこの国で一番広い、名前の上に国立が付くだけのことがあるだけに広い(なんとなく国立って格式がありそうでしょ……なんとなくだけど)、その広さは……、……? ……とにかく広いったら広いの!!(ルーファス曰く、この国のコロセウム×2(二階建てだから)くらいの広さかなぁ、らしい)
写本はどこだと考えていたら、何時の間にかルーファスはガードマンに取り囲まれていた。
「(もう一度、クイックで)」
と思ったが彼にはもうそんな力は残っていなかった。クイックには欠点がある、クイックは一時的に身体能力を2倍に高めてくれるが、疲れも2倍だったりする。ルーファスの息はもうすでに上がっていて2度目のクイックはつらい。しかもきぐるみを着ていると呼吸がしにくい、もうひとつおまけにきぐるみは通気性が悪く中は熱い。
「(もうダメだ……おとなしく捕まろう)」
ネコがゆっくりと両手を上げ終わると、一斉にガードマンたちが押し寄せて来て腕を掴まれ、そのまま引きずられるように事務室に連行された。呆気ない、呆気ない幕切れだった。
小さな小さな心もとない声が事務室に微かに響いた。
「ごめんなさい、もうしません」
ルーファスはガードマンに深々と頭を下げた。するとガードマンは意外にあっさり許してくれた。
「まぁ、博物館を走り回っていただけだから、今回は許しますけど、次回からは気をつけるように」
「本当に申し訳ありませんでした」
確かにルーファスはネコのきぐるみを着て博物館内を走り回って、客やガードマンに迷惑をかけただけで、そんなことはこの博物館では同じようなことを”子供”がよくするので厳重注意だけで済ませてもらえた。
「”子供”みたいな真似はもうしないで下さいよ」
ガードマンは子供のところを強調した。
「はい、以後気をつけます(良かったこれだけで済んで)」
「じゃあもう行っていいから」
ルーファスはガードマンに一礼をして部屋を出て行こうとドアノブに手をかけたら、ドアが勝手に開いた。自動ドアではない向こう側から誰かが開けたのだ。
「(あ、ドアが勝手に)」
ゴン! という音がした。
「いった〜っ」
ルーファスは思わず頭を押えながら、しゃがみ込んだ。
「た、大変です!! ライラの写本が何者かによって盗まれました」
ルーファスのことは無視だった。
「何だって、今行く!」
ルーファスのことはやっぱり無視だった。
ガードマンはルーファスのことなどお構いなしに何処かに行ってしまった。残されたルーファスは少し寂しい気持ちがした。
「ライラの写本が盗まれたのか……(疲れたから家に帰って寝よ)」
博物館内は大騒ぎになっていて、出口では荷物検査が行われていた。
「(大変なことになってるなぁ)」
そんなことを思いつつルーファスは出口で荷物検査を受けていた。ルーファスは手ぶらだったのですぐに通してもらえた(ちなみにネコのきぐるみは没収された)。
博物館を出たルーファスはあることを思い出した。
「(そうだ、裏路地で待機してるって言ってたっけ)」
ルーファスは裏路地に向かった。がしかし、そこには二人の姿はなく、変わりにあったのは『うさぎの人形』と手紙。手紙にはこう書かれてあった。『お前の家で待ってるぞ』と、筆跡と言葉使いからしてカーシャに違いない。
「(ひどいよ先に帰るなんて)」
なんてことを考えていたらすぐに家に着いてしまった。で家のドアを開けると、
「おかえりなさ〜い!」
とハルカの元気な声が、ルーファスは内心ちょっとムカッときたが、たぶん帰ろうと言い出したのはカーシャなので怒るのであればカーシャだ。
ルーファスは家の中に入るとすぐさまカーシャを探した。ですぐに見つかった(そんなデカイ家ではないので)。
「なんだ、無事だったのかへっぽこ」
カーシャは呼んでいた本をパタンと閉じると紅茶の入ったコップを片手に優雅に手を振ってきた。
「…………(死)」
この時、ルーファスは何度目かのカーシャに対して殺意が沸いた。だがルーファスはそれを心に留めた。なぜって、カーシャが怖いから。
「ルーファスもそこに座って紅茶でも飲め」
ルーファスはカーシャに勧められるままにソファーに座ると、すぐにハルカがルーファスのために入れた紅茶を可愛らしい『うさしゃん(うさぎさん)』のティーカップに入れて銀色のトレイに乗せて持って現れた。
「はい、ルーファス紅茶」
微笑みながらハルカはルーファスにティーカップを渡した。
「……ありがとう」
ルーファスはティーカップを受け取る瞬間、ある事を思った。
「(あんなティーカップうちにあったっけ? ……しかも、うさぎって……うさぎ?)」
ティーカップを受け取るとルーファスは紅茶を一口飲み『はぁ』と深くため息をついた。
カーシャも紅茶をひとくち口に含み、それを飲み込むと話を切り出した。
「ルーファス今日はご苦労だったな」
「ご苦労だったって何にも見てなかったでしょ」
ハルカが首を振った。
「ううん、見てたよ、ルーファスがガードマンに追いかけられてたの(あれはなかなかの見ものだったなぁ)」
ルーファスは驚いた表情を浮かべた。
「えっ(何でハルカが知ってるの?)」
とのルーファスの疑問についてカーシャちゃんがわかりやすく説明してくれました。
「これを見ろルーファス」
カーシャは今まで読んでいた本の表紙をルーファスに見せた。
「(この表紙に書いてある古代文字は……)」
「おまえがガードマンに追いかけられている隙にこれを盗ってきた(悪いなルーファス、囮にした)」
「それって、ライラの写本じゃないか!?(なんでここにって)……ライラの写本を盗んだのってカーシャたちだったのか」
「その通りだ」
「ルーファスのおかげで簡単に盗めたよ(ちょっと悪い気もしたけど)」
ルーファスは唖然としてしまった。そして、微妙にキレた。
「もういい寝る! はいはい、ソファー空けて」
ルーファスは二人を『しっし』と追い払い、ソファーにバタンと倒れ込んだと同時に静かな寝息が……。
「疲れたのだな(精神的に)」
カーシャは毛布を持ってきてルーファスの身体にそっとかけてあげた。カーシャもいいとこあるじゃん。
こうしてルーファスだけの長い1日が終わった……Zzzz。
そんな感じで、いろんな謎を残しつつ、この物語はまだまだ続いたりする……。
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)