大魔王ハルカ(旧)
第12話_こんなのアリ!?
アグリッパは呟いた。秘術を発動させる気なのだ。
氷の床にひびが入り、地響きとともに地面の底から何かが突き出た。頭だ、巨大な頭が突き出たのだ。
地面の底から生まれ出た石の巨人。それはゴーレムと言われるものだった。
ハルカがルーファスに尋ねる。
「あれって何なのルーファス?」
「ゴーレムって呼ばれている石や土で造った巨人のだよ(すごいなぁ、あれが本物なんだ)」
2人が見ていると、ゴーレムはゆっくりと重い足を動かした。足が地面に下ろされるたびに地面が割れる。
のっし、のっしと歩いてくるゴレームを冷たい目で見るカーシャ。ゴーレムが相手ではカーシャは少し分が悪い。
「……どうしたものか(石に効果のある魔法は?)」
考え事しているカーシャの身体を巨大な手が掴んで、そのまま上に持ち上げた。それにカーシャは全く動じない。まだ、考えを巡らせているのだ。
「ふぉふぉふぉ、手も足も出ないようじゃな」
「いや、手も足も出ているぞ(な〜んてな)」
握られているのは胴体なので、カーシャの手と足は自由に動かせた。だが、もちろんアグリッパが言っているのはそんなことではない。
ハルカはチャンスだと思った。
「ルーファス、今がチャンスだよ!(ほら、早く行かなきゃ)」
「よっし、行くぞぉ〜!(ヤケクソだぁっ!)」
捕まったカーシャを見てルーファスはここぞとばかりに走った。とにかく走った。そして、ゴーレムの身体をよじ登ってカーシャのもとに行った。
「そのままじっとしててよ」
「なにをするルーファス!?(まさか、私が動けないことをいいことに、唇を奪う気か!?)」
奪うは奪うでも奪う違い。ルーファスはカーシャのイヤリングを奪おうとした。が、取れない。
「あのさぁ〜、これってどうやって取るの?」
「ああ、このイヤリングなら、こうやって――」
カーシャは自ら両耳のイヤリングを外して見せた。それをチャンスとルーファスはカーシャの手からイヤリングを掻っ攫って逃げた。
今のルーファスの行動は作戦ではない、本当に取り方がわからなくて聞いたら、律儀にカーシャが取って見せてくれたのだ。カーシャ不覚。
「待てルーファス!」
カーシャの手から氷の刃が放たれ、ルーファスの掠めて飛んでいく。
「待ったらヒドイ目に遇うからやに決まってるでしょ!」
まんまとルーファスはとんずらして柱の影に隠れた。
「ふぅ、どうにか逃げ切れた(死ぬところだった)」
「すっごいよルーファス! やればできるじゃん」
柱の影でルーファスを出迎えたハルカは賞賛の言葉を投げかけた。
「カーシャさんから盗むなんて、これでこっちの勝ちも同然だね!」
辺りの気温が突然下がった。
「ふふ……それはどうかな?」
蒼ざめるハルカ&ルーファス。2人の視線の先にはカーシャが立っていた。それも白銀の髪をした蒼い瞳の覚醒しちゃってるカーシャが立っている。
「な、なんでカーシャが!? ゴーレムは? アグリッパ様は?(まさか……!)」
まさかのまさか、まさかの頭痛がルーファスに襲い掛かる。あまりの衝撃にルーファスは頭が痛くなってしまった。
氷の床に散乱する石の塊。そして、ずいぶんとヨボヨボなピンクのウサギ。カーシャ恐るべしである。
イヤリングを盗まれたことに激怒したカーシャは、マナの波動だけでゴーレムを粉砕して、すぐさまアグリッパをピンクのうさしゃん人形に変えたのだった。
もうカーシャに適う者はいないだろう。今のカーシャはなんでもアリ状態だ。
「ふふ、ふふ、ふふふ……今なら二人ともお尻100回叩きで許してやろう。さあ、イヤリングを返せ」
「はい、どーぞ返します(お尻100回叩きで済むなら)」
「ダメだよルーファス! 世界の危機なんだよ、世界がカーシャさんの物になってもいいの!」
「いいよ、私は今だってカーシャに使われてるし(よく考えれば、今とあんまり変わらないんだよねぇ〜、あはは)」
「ばかぁ、ばかばかかばルーファス!(もう、ルーファスなんて大ッキライ)」
最後だけ『かば』になっている。
「そうだよね。私が悪かったよハルカ。こんな物――」
イヤリングを持ったルーファスの手が大きく上げられた。彼はイヤリングを破壊するつもりだった。それを見たカーシャが叫ぶ。
「やめろ!(割れ物注意なんだぞ、そのイヤリングは!)」
手が振り下ろされたとほぼ同時に、蒼い宝玉の付いたイヤリングは、地面に叩きつけられて四方に弾けて砕け散った。
この展開にカーシャの顔が蒼ざめた。普段から白い顔をして顔色の悪いこのカーシャが本気で顔を蒼ざめさせたのだ。
「アホかキサマは! 制御装置を壊したら魔導砲が発射されるかもしれなだろうが!」
「「えっ!?」」
この2人、ホントに最近息が合ってきた。コンビとしては申し分ない。
ハルカの手が上げられた。
「は〜い、それって本当ですか? でも、カーシャさんだって魔導砲を撃つもりだったんでしょ?」
「撃つわけないだろうが、脅しだ。本当に撃ったら自分も死ぬだろ!(アホかこいつらは!)」
――しばしの沈黙。
「「マジで!」」
この2人は双子なのだろうか? 声がそろいすぎだ。
「あっ(入ったみたいだ)」
「「なにっ?」」
声をそろえる特訓でもしているのか、この2人は。
「魔導砲のスイッチが入っちゃったみたいだな……テヘッ(今日という今日は笑えないな……ふふ)」
そう考えながらも心で笑っているカーシャ。それは苦笑だった。
絶体絶命大ピンチ。それも世界規模でピンチ。世界破滅へのカウントダウンが開始された。
「世界を吹っ飛ばすくらいのエネルギーを放つには少し時間が要る。魔導砲が放たれるのはだいたい1時間後だな(TheEndだな……ふふ)」
「そんなバカなことあるわけないじゅあ〜ん!」
そう言っている本人がスイッチを入れた張本人だ。
スクリーンに映し出された映像を食い入るように見ていた世界中の人々は、泣いたり、叫んだり、踊ったり、とにかくパニック状態になった。
まさか、3時間後に世界が吹っ飛ぶなんて信じられない。毎日を普通に過ごし、明日が当然のように訪れていた全ての人々や生物たちの運命が一転した。
次の朝が来ない。生物はいつ死ぬかわからない。しかし、1時間後の死を受け入れるなど現実味がない。
なが〜い沈黙が訪れた。成す術は本当にないのか?
突然、カーシャが手を叩いた。
「あっ、そうだ。この城にも魔導砲があった」
「本当ですかカーシャさん、私たち助かるんですか?」
「わからんな(たぶん無理だ……ふふ)」
無理ってどういうことですかカーシャさん!
カーシャは歩き出し、弱っていたヨボヨボのピンクのうさしゃんを人間に戻し、牢屋に入れていたピンクのうさしゃんも人間に戻し、言った。
「世界を救うためにおまえたちも協力しろ(私はまだ死にたくないからな)」
世界を救うのは二の次で、本当は自分が可愛いカーシャであった。
「キサマ、よくも私とクラウスをウサギに変えたうえに牢獄に閉じ込めてくれたな!」
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)