大魔王ハルカ(旧)
第10話_決別しちゃいました
床に這いつくばっていたルーファスが、やっと立ち上がったときには、魔導砲はすでに放たれていた。
「本当に撃つことないだろカーシャ!」
こんなにもルーファスが強く出るのも珍しい。ルーファスは激怒しているのだ。それもかなり。
ルーファスはびしっとばしっと堂々とカーシャを指差した。
「カーシャが世界征服をするなら、私はカーシャの敵になるよ(……ハッキリ言ってしまった。後が怖いかも)」
「ふふ、私の敵だと? この世界征服はハルカの世界征服だ。つまりおまえはハルカの敵になるということだな?」
「……統治(ふっ)」
無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。そして、話を続ける。
「征服じゃなくって統治(ふあふあ)。ハルカを全知全能の唯一絶対の神として君臨させて、絶対君主による完全なる統治がボクの目的だよ(ふあふあ)」
この場の状況というか雰囲気が可笑しくなりはじめている。
『はい、は〜い』と言った感じでハルカは手をあげて発言した。
「あの、カーシャさんは……やり過ぎだと思うんですけど(ああ、言っちゃった)」
「ほう、ハルカも私に口答えする気か?(喧嘩上等!)」
冷酷な表情をしてカーシャはハルカとルーファスを睨んだ。まさに蛇に睨まれて蛙状態である。
思わずハルカとルーファスは1歩と言わず、10歩ほど後ずさりをしてしまった。
ルーファスはハルカを抱きかかえて共同戦線を張った。
「ハルカをダシに使って、自分が世界征服をしたいだけなんだろ!(……ヤバイ、また口が滑ってしまった)」
「そうですよ。今回ばかりはカーシャさんに付いていけません(……ルーファスにつられて私も言っちゃったよぉ〜)」
一方的に押されぎみの二人を助けるようにローゼンクロイツが割った入った。
「魔女の方法はいいと思ったんだけどな(ふあふあ)。ハルカが魔女と決別するなら、ボクはハルカ側に付くよ(ふにふに)」
ここで完全にカーシャVSハルカたちの対立の構図が完全にできあがってしまった。ひとりになったカーシャはどうする!?
「私はやるぞ(走り出したら止まらない……ふふ、ビバ世界征服)」
だそうです。カーシャはひとりでも世界制服をするつもりらしいです。
決別したカーシャは部屋を出て行こうとした。それをルーファスが止める。
「どこ行く気?」
「おまえたちとは絶交だ。私はシルバーキャッスルに帰る(あそこに帰るのは何年ぶりか?)」
そういい残すと、カーシャは姿を消してしまった。それを追うものは誰一人としていない。ローゼンクロイツを除く二人は、絶対にカーシャを止めることは不可能だと思っているからだ。
ローゼンクロイツが軽い咳払いをした。
「じゃあ、そういうことで魔女カーシャを倒しに行こう(ふあふあ)」
「「はぁ?」」
いつも通り息がぴったりな二人。ハルカとルーファスは声をそろえて裏返った声を出して、間の抜けた表情をした。
「世界征服を企む魔女を正義の味方ハルカが倒しに行くんだよ(ふにふに)。そうして世界に恩を売って、ハルカを世界に君臨させるんだよ、わかった?(ふあふあ)」
この男、カーシャよりも悪いやつかもしれない。
半日3度目のホログラム映像が世界に発信された。
その内容とは、カーシャは世界の敵であり、ハルカ率いる薔薇十字団はカーシャを討伐してみえるというもの。つまり、薔薇十字団はカーシャと一切関係ないと世界に伝えたのだ。……いわゆる、トカゲのしっぽ切り。
「じゃあ、ハルカとルーファスはカーシャを身命にお縄にして来てね(ふあふあ)」
「「はぁ!?」」
本日何回目だっただろうか? またまたハルカ&ルーファスは声をそろえて驚いた。
「ちょっと待ったローゼンクロイツ、君はもしかしていかない気?(カーシャを敵に回すなんてできるわけないじゃん)」
「そうですよ、私はただの猫ですし(にゃ〜んってね)」
2人の発言はなかったことにされて、無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。
次の瞬間、ハルカ&ルーファスは路上の真ん中に突っ立っていた。
「……飛ばされた!?(ローゼンクロイツに外に飛ばされたのか!)」
そのとおり、ルーファスが思ったとおり、2人は路上に強制的に飛ばされていた。
「ルーファスがいたぞ!」
自分を呼び声が聞こえたので、ルーファスがふと後ろを振り向くと、そこには鎧を着たゴツイ兄さんたちが大勢こちらに向かって走ってくる。
「何あれ!?(私何かしたっけ?)」
次の瞬間はルーファスはハルカを抱きかかえて走っていた。小心者というかなんていうか、悪いことをしていないのに逃げてしまった。
もちろん、逃げたら普通は追いかける。ルーファスの後ろからは恐い顔の兄さんたちが追いかけてくる。そして、追いかけられたら普通は逃げる。
「何なのあの人たち、ねえルーファス?(なんか厄介なことに巻き込まれた感じ)」
ハルカの不幸は続く。その不幸に巻き込まれる率はルーファスといい勝負。つまり、2人が一緒にいれば破滅的な人生を送ること間違いなしなのだ。
「なんでだろうね? 私にもわからないよ(心当たりならいっぱいあるけど)」
「じゃあ、逃げないほうがいいんじゃないの?」
「でも、乱暴とかされたら恐いしさあ」
「……へっぽこでも魔導士なんだから、少しは強いんじゃないの?(私が魔王に身体を乗っ取られてた時のルーファスはカッコよかったのになぁ)」
「私は平和主義だか――わぁっ!?」
突然、ルーファスの首根っこは何者かに捕まれ、路地裏に連れ込まれた。ま、まさか、拉致監禁暴行か!?
フードをかぶったローブ姿の2人組みがそこにはいた。
「話は後だ。今は追ってから逃げよう」
フードの中から聞こえる若い男の声はそう言った。
「テレポート!」
声を発する魔法。すなわちこのフードの男はライラの使い手ということになる。ちなみに先ほどローゼンが使った魔法はマイラと呼ばれる特殊な部類に入る魔法だ。瞬間移動系の魔法は高度な魔法のため、使い手は極僅かである。
ここにいた4人は瞬時のうちに別の場所に移動し、ここに駆けつけた兵士たちは丸い目をして顔を見合わせた。
アステア王国の首都外の平原に瞬間移動して来た4人。
フードをかぶっていた2人はハルカ&ルーファスにその顔を見せた。
1人目はエルザ元帥。そして、もう1人はクラウス国王。
「やあ、ルーファス。久しぶりだね(相変わらずだな、こいつは)」
「ああっ!? クラウスがなんでここに?(城の外に出るなんて、しかもエルザと一緒?)」
素っ頓狂な声をあげてルーファスは目を丸くした。だが、ハルカはクラウスのことを知らない。
「誰なのこの人?(顔立ちはルーファスよりも端整で、ちょー高貴な雰囲気がどことな〜くある人けど……?)」
エルザがどどんと胸を張って前に一歩出る。
「ここに仰せられるお方は、クラウス国王様であらせられる」
「マジで!?(この人が王様なんだ。結構若いみたいだし、なんでルーファスなんかと知り合いなんだろう?)ルーファスと国王様はどんな関係なんですか?」
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)