大魔王ハルカ(旧)
「僕とルーファスは学院時代の友達でね。ああ、それからこれはお忍びの旅だから、王様っていうのはやめてくれるかな? クラウスって呼んでくれ」
「(王様とルーファスが友達!? このへっぽこ魔導士と?)」
ハルカがどう思おうと、ルーファスとクラウスが友達なのは変えられない事実で、そうなんだからしょうがないとしか言えない。
「僕とエルザはカーシャを捕まえに行こうと思っているんだ。そのためにルーファスの力を借りたい」
「こんなへっぽこ魔導士に!?(無理無理、カーシャさんに敵うわけないじゃん)」
「へっぽことは失礼な。私だって道案内くらいはできる!」
胸を張って堂々と言い放ったルーファス。でも、全然胸を晴れることではないのは、誰もが思うこと。魔導士としてはやはりへっぽこなのだ。
「では、さっそく道案内を頼む(今のは胸を張って言うことなのか?)」
エルザに本当に道案内を頼まれてしまったルーファス。しかし、彼は道案内に胸を張っていた。
「任せて、道案内なら。カーシャのところに案内すればいいんでしょ? でも、かなり遠いよ」
テレポートならば瞬時に行くことができるかもしれないが、テレポートとは基本的に行ったことのある場所でないと行くことができない。基本的というのは、その場所の映像などの情報があれば、行けるかもしれなからだ。
ここでひとつわかったこと、つまりルーファスはテレポートが使えない。使えるものの方が稀なのだ。
ここにいるメンバーでテレポートが使えるのはクラウスだけだった。
「そこは僕の行ったことのない場所なのかい?」
「う〜ん、え〜と、行ったことはあるけど、途中まで……(ああ、嫌な思い出を思い出しちゃったよ)」
腕を組んだ状態でルーファスの表情が強張っている。それを不思議な顔をしてハルカがルーファスの顔を覗き込む。
「どうしたの、顔が真っ青だよ?(いつものことのような気もするけど。いつもこんな表情ばっかりするよね)」
「……私がカーシャと始めて出会った場所にカーシャはいる。その場所は……魔導学院の校外実習で行った雪山」
この言葉を聞いたクラウスの少し顔を強張らせた。
「あの地獄の校外実習か……(思い出しただけで身震いする)」
地獄とはいったいどんな実習だったのか? もしや雪山ですっぽんぽんとか?
「でも、確かルーファスは帰り道で遭難して?(そうか、その時、ルーファスはカーシャと出会ったのか)」
そう、その時にルーファスはカーシャと出会った。しかし、遭難して帰ってきたルーファスはそのことを誰にも話していない。聞かれても何も覚えてないとウソをついていた。その理由はもちろん、カーシャによる説得(脅迫)があったからだ。
カーシャに脅迫されて今まで誰にも言わなかったカーシャとの出会い。そのことを思い出したルーファスは突然、慌て出した。
「あ、あの、うん、雪山でなんかカーシャと出会ってないよ(危ない、危ない、口を滑らせるところだった)」
十分口は滑っていると思うが、ルーファスにとってはこれで精一杯の言い訳なのだ。
空気を切り裂き、何かが煌いた。
「言え、ルーファス!(あのカーシャのこととなれば黙ってはいられぬ)」
ルーファスの首にはエルザの抜いた剣が突きつけられていた。
「え〜と、カーシャの正体がなんであるかなんて口が滑っても言えるわけないじゃん。でも、居場所くらいなら、言えるかなぁ〜(……こ、殺される)」
またルーファスは口を滑らせた。『正体』ってことは今のカーシャの姿は仮の姿だと言っているようなものだった。
首に突きつけられた剣がぐぐっと動いた。
「……言え」
ドスの利いた低い声だった。
「言ったら私が殺される(言わなくても、今殺されそうだけど)」
あまりの怯えようのルーファスの首から剣が離された。エルザは少々呆れた顔をしている。
「ふぅ、仕方ない。場所案内だけでいいだろう(だが、カーシャの首は私が……)」
もしや、エルザはカーシャを殺す気満々とか?
「では、僕のテレポートでグラーシュ山脈まで行こう。その後の道案内はルーファス頼むぞ」
今のクラウス言葉に頼りなさ気に頷いてみせるルーファス。彼は本気でカーシャが恐い。それはハルカも同じだった。
「(ああ、カーシャさんと戦うことになるのかなぁ〜。ヤダなカーシャさんって冷血なんだもん)」
クラウスは目をつぶってグラーシュ山脈のイメージを頭に思い浮かべた。これに失敗するととんでもない所に行ってしまう。実は、時には空間の狭間に閉じ込められて出れなくなることもある危険な魔法なのだ。
グラーシュ山脈。そこはクラウス王国の北に位置する極寒の山岳地帯。クラウス王国全体はやや温暖で過ごしやすい地域なのだが、この山脈地帯だけがなぜか気温が異常に低い。その気温は平均で零下20度で、最低気温はだいたい零下50度に達するという。
グラーシュ山脈には特殊な生物以外は全くいない。そのため過去に一度だけ魔導学院の実習場所として選ばれたが、あまりにも過酷だったためにそれ以降の実習では使われたいない場所だ。
イメージが固まった。昔のことだったのでだいぶイメージを固めるのに時間がかかったが、準備は整った。
「テレポート!」
次の瞬間、平原から4人の姿が消えた。
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)