大魔王ハルカ(旧)
カーシャがボソッと呟くように言った。ちなみにラウルとはこの国で使われているお金の単位で日本円でいうと1ラウル13円といったところで、2万ラウルは円に換算すると20,000×13=230,000、23万円。もうひとつちなみにラウルっていうのはこの国の初代国王の名前。
「ねぇ、ルーファス2万ラウルって高いの?」
「1ラウルチョコが2万個買える(2万個も食べきれないな)」
「例えが悪い(1ラウルチョコって5円チョコみたいなのかな)」
「じゃあ、うめぇぼう(2ラウル)が1万1,500個買えるとか(これも食べきれないな)」
「だから、わかんない(うめぇぼう? ……これも聞いたことあるような名前)」
そんなやり取りを闇の奥から見つめるひとりの女性が……ってカーシャなんだけど。
「二人はどういう関係なのだ?(衝撃スクープ、へっぽこに恋人が!! ……なんて……ふふ)」
「あぁ、そうそう、そのことでここに来たんだけど(話をそらして弁償はパーだ作戦!)」
「さっきの話の続きだな」
ルーファスはこちらはって感じの手のポーズを決めて、ハルカの紹介を始めた。
「大魔王を召喚しようとして間違って召喚してしまった代魔王ハルカちゃんです!」
「……(大魔王を召喚しようとした? ……このへっぽこが)」
「こんにちは加護ハルカ[カゴハルカ]です」
「私はカーシャだ、よろしく」
「(カゴハルカっていうのがフルネームだったのか、今知った)」
ルーファスはちょっとショック!
「それで、私の店に来た理由は?(かわいそうな娘……かわうそう……かわうそ……カワウソ娘(仮)。……ふふ)」
『(仮)。』って何なんだカーシャ!!
「え〜と、それがだねぇ。帰せなくなったんだよね」
ハルカは思わず店のカウンターに身を乗り出して、
「そうなんですよ、この人勝手に私のこと呼んどいて、帰せないとか言うんですよ!(あ、この人近くで見ると綺麗)」
「そうか、このへっぽこのせいで元いた場所に帰れなくなったとそういうわけか(今年のへっぽこ大賞もこいつで決まりだな……ふふ)」
「ほんとへっぽこですよねぇ〜(あっ今この人口元が緩んだ、それにしても綺麗なひと……でもあの店のネーミングは無いと思う)」
カーシャはちょっと真剣モードに切り替えてしゃべりだした。
「召喚というのは役目が済む、あるいは召喚者が無理やり戻すか召喚されたモノが自ら戻るかだが……この娘に与えた役目はなんだ?」
ルーファスは口に軽く手を当て、
「え〜とだね、世界征服をしてもらうためだったかなぁ〜」
『かなぁ〜』じゃないだろルーファス!
「一つ目の条件は無理だな、では二つ目は(世界征服なんて……子供の夢か)」
「知らない」
ルーファスはあっさりさっぱりきっぱり答えた。
「……だろうな(へっぽこ)、この娘に自ら戻るチカラがあるとは思えん。やっぱり世界征服が一番打倒だな(大魔王ハルカか)」
「そ、そんな二つ目の方法、カーシャさんは知らないんですか?」
「召喚者が無理やり戻すというのは可能性の話で実際に戻す方法はあるのかどうかは知らん(適当な思いつきで言ったからな)」
「じゃあ私やっぱり、大魔王になって世界征服するしか……(サイテー)」
落ち込んでるハルカを見てルーファスが人事のように笑った。
「あはは、大変だねぇ」
「って誰のせいよ!!(このへっぽこ)」
愕然といった感じのハルカに追い討ちをかける一言がカーシャの口から発せられた。
「さて、では弁償してもらうか」
「あっ……(さっきの置物か)」
「2万ラウルなんてあるわけないじゃん(作戦失敗)」
「金はいい、ただ」
「「ただ?」」
二人の声が揃った。
「新薬の試薬をしてもらう(自分じゃ、恐いからな)」
ハルカはあっさり、きっぱり、断った。
「それはヤダ(ヤナ予感がする)」
「まぁ、ぐぐっと飲み干せ」
カーシャはそう言うと、カウンターから身を乗り出しハルカの口を無理やりこじ開け変な液体を流し込んできた。
「にゃににゅるの!(何するの! ……しかもマズイ)」
「ハルカに何を飲ませた!?」
「マナのチカラを増幅させる薬だ。まぁ効果は1.2倍程度だが」
すぐに薬の効果は現れた。
「……(か、身体が熱い……意識が)」
ハルカの身体が当然まばゆい光を放ち、暗い店を一瞬にして白い世界へと変えた。そして、光はハルカの身体に吸い込まれるように消えていき、少し間を置いてハルカを中心に衝撃波が巻き起こった。
「な、何だ!」
とルーファスが言ったときには彼の体は宙に浮きそのまま衝撃波によって壁に叩きつけられていた。
「予想外の効果が出てしまった、気を付けろルーファス」
「ダメだ、もう背中打った(かなり痛い)」
ハルカの身体がまた、輝き始めた。
「カーシャ、あれどういうこと?」
『どういうこと』とは、『なんで光ってんの?』という意味である。
「マナの暴走だ。ひとまず店の外に走れ!(まずいことになった)」
ハルカの放出した光はまた吸収され第2波が店の出口へと走る二人を襲う。そして、衝撃波に押された二人の身体は自分の意志に反して宙を飛び店の外に投げ出されるよに放り出されてしまった。
その光景を見ていた、通行人が群がって来た。その中の一人の中年男性が二人に声をかけた。
「お二人さんどうかしたか、服がボロボロだぞ」
そのとき、店がすごい轟音とともに大爆発を起こし、店の破片が辺りに飛び交う光景を目の当たりにしたこの場にいた全ての人は口をあんぐり開け固まってしまった。そして、ルーファスは首だけをカクカクとロボットのように曲げ、『カーシャさん質問があります』をした。
「マナの暴走って何?」
「そんなことも知らんのか(へっぽこ)。マナの暴走とは自らのマナもしくは借りたマナが大きすぎて制御がきかなくなり、大爆発を起こすことだ!」
などとカーシャが説明をしていた最中、またも衝撃波が巻き起こり、辺りの建物を全てなぎ払いハルカの周り半径10m先までまっさらな大地となってしまったのだった。
それを見た集まって来ていた野次馬が大声を上げながら一斉に逃げ出した。……二人を残して。
「予想以上すぎるマナの持ち主だあの子は(ただの娘だと思ったのが……くっ)」
またも爆風が! 二人は瓦礫となった家の壁の裏まで走りそこに身を潜めた。
「でもハルカはマナも知らない異世界の人だよ(なんかすごいことになってきた)」
「今はそんなことどうでもいい、あの子を止めるぞ(たぶん、このままいくとこの地区は崩壊だな)」
「どうやって?」
「作戦はこうだ。次の衝撃波を合図に走っ」
カーシャの言葉途中で途切れた。それはなぜらば、凄い爆風とともにそれも今までで一番デカイ衝撃波が巻き起こり、二人の隠れていた壁とともに二人を天空へと巻き上げられたからだ。だが、二人はそんなことお構いなしに空へ舞い上がりながらもなお会話を続けていた。……この二人の神経普通じゃない。
「作戦変更、このままレビテーションで彼女のところまで飛んで行き、マナを大地に逆流させる。いいな?」
「なんとなくわかった」
レビテーションとは空中を自由に飛ぶことのできる魔法で、大気のマナを大量に消費する高等魔法だ。
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)