大魔王ハルカ(旧)
第7話_電波ジャック
「……ここはね。ボクの秘密結社だよ(ふにふに)」
そうローゼンクロイツは呟いた。小さな呟きであるがルーファスを驚かせるのには十分だった。
「な、なに? 秘密結社だって!? だって、ローゼンクロイツは国務執行官でしょ? 秘密結社?(どういうこと!?)」
取り乱すルーファスなど構いもせず、ローゼンクロイツはハルカのことを抱き上げ神殿に中へ入って行ってしまった。
自分の置かれた状況が、一向に見えてこないルーファスが『はっ』とした時には周りには誰も居らず、自分が置いていかれたことに気づいて駆け足で神殿の中へ入って行った。
神殿の内部は神殿というより宮殿、大きな広間が一つだけ存在して、絢爛豪華な装飾のされた壁や天井には、幻想的な羽の生えた人間の絵が描かれている。そして、床には魔方陣や古代文字がびっしりと敷き詰められていた。
静かな神殿の奥へと足を運んだローゼンクロイツは、祭壇の前で足を止め、ハルカをその上に祭り上げた。
「君がこの秘密結社の神だ(ふあふあ)」
「えっ!?(か、神って私が!?)」
ローゼンクロイツの『君は神だ』発言。この発言は愛の告白よりもある意味衝撃的な発言だ。
「……今からその説明してあげるよ(ふあふあ)」
無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。そして、ローゼンクロイツの説明が始まった。
「ここはボクの組織した薔薇十字団の神殿。本部は別にある。国務執行官は仮の姿、あれは国を乗っ取るためにやってるだけ(ふにふに)」
衝撃の告白第2弾、『国を乗っ取る』発言。ハルカ固まる。ルーファスはあごが外れた。
――数秒の時間を要して、
「国を乗っ取るってどういうことですか!?(何この人テロリストなの?)」
「ちょっと、待った、何で国を乗っ取るの?(ローゼンクロイツは何を考えているんだ?)」
とハルカとルーファスは大声で言った。
「国を乗っ取るのは魂の解放、全てのモノを天へと導く教祖としてのボクの使命(ふにふに)」
「ローゼンクロイツ! 魂の解放って何? 君がやろうとしていることは何なんだ!?(……っていうか、昔からこんな奴だったけど)」
そうローゼンクロイツはルーファスが知っている限り、3歳ごろから電波で、しかも危ない思想を持った人物だった。よくこんな奴が国務なんてやってるもんだとルーファスは思う。
「……ここからは一切質問は受け付けない、最後まで一気に話すからよく耳を済ませるんだよ(ふにふに)」
二人はこの言葉に頷き口を開くことを止めた。
「ボクは魔導の研究をしているうちにある預言書を見つけた……ある意味偶然(ふっ)。その預言書には、今日の日付とある場所が書かれていて、その場所に全てのモノたちの魂を解放する救世主が現れ、ボクがその救世主に出逢うことが書かれていた。その救世主は人間の言葉をしゃべる黒猫。それを読んだボクは秘密結社薔薇十字団を創設して、教祖となりこの日が来るのを待ちわびた……(ふあふあ)。つまり、ハルカ、君が救世主ってことだよ(ふあ)」
閃光が神殿内に乱れ踊った。ローゼンクロイツの身体を包み込む淡い光から閃光が外へと放出される。
「……電波ジャック(ふっ)」
自身に満ち溢れた気高く崇美な表情を浮かべたローゼンクロイツ――。
いったい何が起こっているのか!?
アステア王国に住む人々は驚愕した――。
突如どこからか放たれた稲妻のような光線が生き物のように縦横無尽に国中を飛び交い、人々は怯え、逃げ出し、パニック状態に陥り、国中は狂気に満ち溢れた。
大魔王ハルカの襲撃から、まだ1ヶ月も満たない。それが人々の恐怖をより一層駆り立てた。
国を、町を、人々の間を飛び交った閃光は上空に上がり、フォログラム映像を作り出した。それも一つではなく、国中の至る所にいくつも、いくつも同じ映像が映し出された。
映し出された映像は――猫だった。その映像を見た人々は唖然とした。
映像の猫は言った。
「こ、こんにちわ、加護ハルカって言います(こ、これでいいの?)」
猫=ハルカはちょっと気恥ずかしそうに、数分前にローゼンクロイツに言われたように挨拶をした。
人々は余計に唖然とした。映像の猫が人間の言葉をしゃべり、しかもその声が可愛らしい女の子のものだったからだ。ここで低く恐ろしい声を発していたならば、人々は再び恐怖で混乱に陥ってかもしれない。
映像は画面の端からローゼンクロイツが入って来て、ハルカを抱きかかえる映像となった。
「……この映像は国に無断で流してるんだよ(ふにふに)。でも、誰もボクの崇高な行為を邪魔はできない、この国で一番の魔導士はこのボクだからね……自画自賛(ふっ)」
無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻り話を続ける。
「申し遅れたね、ボクの名前はクリスチャン・ローゼンクロイツ、国務執行官を副業にしている秘密結社薔薇十字団の教祖だったりする(ふにふに)。今日は大事な報告をするためにみんなの前に顔を出してみたよ(ふにふに)」
秘密結社薔薇十字団のことは秘密と名乗りながらも、国民の大半に知られる公然の秘密の組織だった。その活動内容は特に重い病を患い苦しむ人々の前に現れ、無料[グラーテイス]で行ったり、一部の特権階級しか知らない秘術などを一般人に広めたりしていた。
慈善活動をやっている団体のようではあるが、国からは目を付けられ教祖は指名手配されていた。国がこの秘密結社を疎ましく思った理由は、国の最高機密である秘術などが、この秘密結社によって一般人にも広まってしまっていたからだ。
しかし、教祖の存在はいるとは言われるが、そのしっぽすら掴めず国はお手上げ状態であった。
男か女かも正体が知れなかった秘密結社薔薇十字団の教祖が、今全国民の前に姿を現したのだ。国家は揺れた。
カーシャ並びにファウストを拘束し、この映像を見ていたエルザ元帥は唇を噛み締めた。
「くっ、まさかローゼンクロイツが薔薇十字団の教祖だったとは……(どおりで証拠が何一つ掴めなかったわけだ。上で改ざんされていたのでは、証拠などもみ消されて当然だ)」
エルザ元帥とは対照的に、魔法で作られたチェーンでエルザ元帥に拘束されているカーシャとファウストはうれしそうな顔をしていた。
「ふふ、クリスちゃんもなかなかやるな(ローゼン=薔薇、クロイツ=十字、で薔薇十字団か……そのままだな……ふふ)」
「ローゼンクロイツが教祖か、おもしろい。我が魔導学院卒業生の一番の鬼才だけのことはあるな」
この二人はこんなところでは馬が合うらしい。
悔しそうな表情のエルザを見て、カーシャは実に楽しそうだった。
「私を捕まえて気分上場だったエルザも、今は失意の底か?(……人生、山あり谷あり、ふふ)」
「なんだと?(この女が、私自らが極刑を下してやる)」
しかし、それは叶わぬ夢となった。
両腕を魔法のチェーンで拘束されていたカーシャの腕が溶けた。まるで手と腕だけが液体になってしまったように、それでいて手と腕の形を保っていた。そして、液体となった腕が手錠から抜かれた。
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)