大魔王ハルカ(旧)
第6話_性格悪いでしょ?
心当たりはあるものの結局のところわけのわからないまま、ルーファスはローゼンクロイツに首輪を引っ張れれて学院の外にある噴水広場まで連れてこられてしまった。
学院から離れるとどっかの誰かさんたちの戦いが手に取るようにわかったりする。バ〜ン! ど〜ん! ドォォォッ!! ぴゅるる〜っ!! 上空では激しい戦いが繰り広げられている。勇敢な人々が二人を捕まえようとしているみたいだが、ピンクのうさぎしゃんのお人形が上空から落下している。もう二人は誰にも止められないのか?
目を凝らしてルーファスが学院上空で繰り広げられている激闘を見ていると、突然グッと首輪が引っ張られた。
「はぶっ!!(苦しい)」
「よそ見してると引っ張るよ(ふーっ)」
言うことを聞かない飼い犬の鎖を引っ張るような態度のローゼンクロイツ。しかし、言い方はゆったりとした口調で、ふあふあ〜っとしていて、しかも無表情だった。
首元を摩りながらルーファスはローゼンクロイツのことを横目でチラッと見た。
「引っ張る前に言おうよ、そういうことは(ホントに首絞まるかと思った)」
「えっ、ウソ!? 言う前に引っ張ったつもりだったのに、手のほうが早く動いたらしい……自分の身体能力に驚き(ふにふに)」
「そういう原理なの?(今、自分でもよくわからない発言しちゃったよ)」
ペットハウスがガタガタと揺れた。ハルカの外に出してよコールだ。ルーファスはしかたなくペットハウスを石畳の上に降ろして扉を開けた。
ペットハウスの中から出てきたハルカは前足を伸ばして伸びをしながら欠伸をした。このポーズはいわゆるヨガとかでいう猫のポーズってやつ?
ぶるぶると身体を震わせ姿勢を正したハルカとローゼンクロイツの目線が重なった。
「(思いっきり見てるよこのお嬢さん風の人)」
ハルカはローゼンクロイツが男だということを知らない。
全てを見透かしてしまいそうなエメラルドグリーンの瞳がハルカを見つめる。見つめられるハルカはあることに気づいた。ペンタグラム(五芒星)の形―― ローゼンクロイツの瞳にはペンタグラムが映っていた。
「(変わった瞳……?)」
「君、ボクの瞳のこと変わった瞳だなって思ってる顔しているよ(ふあふあ)」
「(げっ、なんでわかったの?)」
なぜわかったかという以前にローゼンクロイツが猫に普通に話し掛けている光景の方が問題あると思うが……? もしかして、ローゼンクロイツはハルカが本当は人間だということをそのペンタグラムの瞳で見透かしているのか!?
ローゼンクロイツは異常なまでに鋭い、もしかしたら人の心が読めるのではないかとルーファスは考えている。でルーファスはすばやく行動に出た。
「あのさ、ところでなんで私が連行されなきゃいけなかったの?(話を反らせよう作戦!!)」
これ以上ハルカに興味をもたれるのはマズイと思いルーファスはローゼンクロイツの気を反らせることにしたのだ。
「そうだ、忘れてた(ふにゃ)」
「そうだよ、私が連れて行かれる理由を話してくれなきゃ(……どうやら、話がコッチに)」
「これ人間(ふあふあ)」
衝撃の一言にルーファスショック! ローゼンクロイツの指差した方向には百歩、いや千歩譲ってもハルカがいた。
話をうまく反らせたと思っていただけにルーファスのショックは一入[ヒトシオ]だ。
「え、なにが?(なんでわかるの?)」
なんでわかるのと聞くまでも無い。高位の魔導士であればハルカが人間であることをマナを感じて、もしくは《視る》ことによって簡単にわかってしまう。現に魔法剣士エルザやクラウス魔導学院教頭パラケルススもすぐにハルカが人間だとわかったではないか。
「……これでも国務執行官長だから(ふん)」
「……(そうだよね)」
そうです。ローゼンクロイツは学院生時代はルーファスとは違って自他ともに認める学院でも1・2を争う魔導の使い手、そんな人がハルカが人間であることを言い当てないはずがなかった。
「それはさておき、なんでボクがここに来たのか、そしてなぜルーファスを捕まえたのか聞きたいよね?(ふあふあ)」
「(さておいちゃうの?)だから、ず〜っとなんでか聞いてるでしょ?」
「えっ、ウソ!? そうだったの!?(ふにふに)」
今まで見せなかった驚いた表情というものをしてすぐに無表情に戻る。これで彼の表情パターンは3パターン披露された。
「ずっと言ってたでしょ?(人の話聞いてないなぁ〜)」
「……冗談(ふっ)」
無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。この発言にルーファスは思わずまぬけな表情をしてしまった。
「はい?」
「ず〜っと言ってたの知ってるよ(ふっ)」
二人の会話を近くて見て聞いているハルカは思った。
「(この人もしかして、性格悪い? てゆーか電波系って感じ?)」
とハルカが心で思った瞬間ローゼンクロイツがハルカを一瞬見て、無表情な顔についた口が一瞬だけ歪め、すぐに無表情に戻した。
「そんな不思議な知的生命体を見るような目でボクを見ないでよ(ふにふに)。あ、そんなことより、ボクがルーファスを連行した理由だったね。うん、2割引バージョンで手短に話してあげるよ。あれ(ふにふに)」
ローゼンクロイツの指の先――上空では今もどっかの誰かさんたちが激しい戦いを繰り広げていて、時折、黒き炎や氷柱が地面に飛来していた。下にいる人々は大惨事、とんだとばっちりだ。
「本当はあれらを連行するように言われたんだけど……こっちのほうが気になってね(ふにふに)」
そう言ってローゼンクロイツはハルカを見た。見られたハルカは一瞬ビクっとして後退り、身を縮めた。
「(あの瞳ちょっと不思議で恐い感じがする)」
「えっ? 私を連行したかったわけじゃないの?(……会ってすぐにハルカのことバレてたのかな?)」
てっきり捕まるのだと思っていたルーファスはちょっと拍子抜けしてしまった。
「学院で暴れてる奴を連行するように言われたけど、このネコの方がおもしろそうだったからね(ふあふあ)」
そう言ってローゼンクロイツは普段は絶対見せることの無い笑顔を浮かべてハルカに手を差し伸べた。でも笑顔はすぐに無表情へと変わる。
「ボクの名前はクリスチャン・ローゼンクロイツ。君の名前はなあに?(ふあふあ)」
「私の名前はハルカ。今は猫だけど本当は女の子で、こんなことになったのも全部コレせい!」
びしっとばしっと、ハルカは前足をルーファスに指した。
「ええっ、ネコになったのはカーシャのせいでしょ?(……たしかに召喚しちゃったのは私だけど)」
「でも、ほとんどはルーファスのせいだもん!」
「うっ……(痛いとこ突くなぁ)」
クリティカルヒット!! ルーファスは図星を突かれて精神的ダメージを受けた。
空色のドレスの裾を揺らしながら、機械のような正確な90°回転をしたローゼンクロイツは肩越しから二人を見て、
「じゃあ行くよ(ふにふに)」
「どこに?」
ルーファスは至極もっともな質問をしてしまった。それに対してローゼンクロイツは無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、鼻で笑ってすぐに無表情に戻した。
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)