大魔王ハルカ(旧)
「ルーファス帰ろ。パラケルススさんありがとうございました」
ガックリと肩を落としたハルカは重い足取りで部屋を出て行ってしまった。
「待ってよハルカ!」
「力になれんで悪いな」
「いえ、ありがとうございました」
ルーファスはパラケルススに頭を下げて急いでハルカを追った。
騒がしい廊下を一匹とぼとぼと暗い影を背負いながら歩いているハルカ。その後ろからペットハウスを持ったルーファスが追いかけてきた。
「ハルカ待ってよ!」
「お腹空いちゃったよねぇ〜(はぁ、私にはどうしょーもないもんね、考えるだけ無駄、無駄)」
「お腹空いた? まだ夕飯には時間あるけど?」
「わかってないな、まあルーファスは鈍感だから」
「私が鈍感?」
「いいの、気にしない気にしない。人生もっと明るくいかなきゃね!(周りに励ましてもらおうなんて駄目だよね。自分が明るくならなきゃ)」
とそのとき突然、ドカ〜ンという轟音が響き天井が崩れ落ちて、青空とそこを飛ぶなにかが見えた。
「「あっ」」
二人の声が重なり、二人の目線は同じ方向に向けられていた。
青空を飛び交う二つの物体。よ〜く目を凝らして見るとそれがなんだかわかってくる。カーシャとファスト。
口をポカンと開けながらルーファスは他人事のように呟いた。
「まだ、戦ってたんだ(そうだ、ハーピーの羽取りに行かなきゃ)」
「ペットハウスの中にいてイマイチ状況がわからなかったけど……あんなことになってたんだ」
息をひと吐きしてルーファスは上空で起きていることを見なかったことにした。
「さてと帰ろうか(他人のフリ)」
「そうだね(他人のフリ)」
ここでまたカーシャに関わるとロクなことがないと判断した二人は足早に学院をあとにすることにした。
学院を出る前に事務室に行って腕にした腕章を取ってもらわなくてはいけない。
「あの〜、腕章取ってもらえませんか?」
ルーファスの呼びかけで出てきた事務のお姉さんは最初に会った人とは違った。最初の事務員はまだ意識を失って倒れている。
「騒ぎが治まるまで、誰も学院から出さないようにと言われていまして……」
「でも私は無関係だし、早く家に帰りたいなぁ〜なんて……(無関係……じゃないけど)」
無関係とは言いがたい、ルーファスは先ほどまで事件の中心にいたのだから。
できる限り早くここから逃げたいルーファスは事務員になんども詰め寄るが、事務員は決して首を縦には振ってくれなかった。そこにある人物が姿を現した。
空色の生地に白いレースをあしらったドレスを着た美しい女性がルーファスを無表情で見つめた。お嬢様オーラが全身からでていた。
「へっぽこルーファス久しぶり(ふにふに)」
ゆったりとした口調で、透き通るような、そこに無いような声色だった。
この空色のドレスを着ている人物はルーファスの昔からの知り合いのクリスチャン・ローゼンクロツ(♂)。そう、見た目と声質はお嬢様だが男である。
ローゼンクロイツは事務員に近づくと身分証明書を提示した。そこには国務執行官、それも執行官長と書かれていた。
国務執行官とはこの国のエリート中のエリートがなれるという職業で、犯罪の取締りから他国との外交などなど、国務の中でも現場に赴く仕事を中心にするエリート集団である。
事務員は慌てた様子で背筋をピンと伸ばした。
「存じております。最年少で国務執行官長になられたローゼンクロイツ様ですね(本学在校中は手におえない問題児の天才魔導士だったって聞いたけど……)」
「そこにいるルーファスは、ボクの方で身柄を拘束することになったから、連れていくよ?(ふに?)」
「あ、はい、どうぞ」
機会のような正確な歩調でローゼンクロイツはルーファスの前まで来ると、ルーファスの腕に付いていた腕章を手でなぞるようにして簡単に取ってしまい、
「行くよ(ふあふあ)」
と言ってルーファスの腕を掴んだ。
「え、なに? 捕まったの?(犯罪者なの?)」
「……拘束(ふっ)」
この言葉を発した一瞬だけ、冷めたような目をしての口元だけが少し歪んだ。ルーファスを少しバカにしているような態度だった。そして、すぐに無表情に戻る。
ペットハウスの中にいるハルカはやはり外の状況はイマイチわからない。
「(ルーファスが身柄拘束!? えっ、もしかして私も連れて行かれるの!?)」
ローゼンクロイツに腕を捕まれてルーファスは唖然とした表情を受けべてしまっている。たしかに連れて行かれる心当たりは沢山ある。が、どれが理由で連れて行かれるのかわからない。
「あ、あのさ、何で私がローゼンクロイツに連れて行かれなきゃいけないの? いや、心当たりは山とあるけど……(これとか、これとか……ホントに数え切れない)」
「学院を出てからゆっくり話そう(ふっ)」
無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。これは彼のクセのようだ。
「拘束って? 私は犯罪者扱いなの?(たしかに……否定はできないけど)」
「……それはどうかな?(ふっ)」
無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。
「な、なんなのその意味あり気な表情は!?(いつに捕まるのか……ライラの写本盗んだこと、大魔王のこと、住宅街吹っ飛ばしたこともあったな……)」
「行くよ、ある意味力ずくでね(ふにふに)」
ローゼンクロイツの腕が何かを振り払うような動き――正確には何かを飛ばすような動きをした。その手から光のチェーンが放たれルーファスの首に巻きついた。
「……捕獲完了(ふにふに)」
ぐぐっと首輪のひもを引っ張られてルーファスは強引にローゼンクロイツに連れて行かれる。
「あ、待って、なんで、なんで連れて行かれるの?」
「……どうしだろうね?(ふに?)」
無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。
ズルズルと引きずられていくルーファスとローゼンクロイツに事務員は深くお辞儀をして見送った。
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)