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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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大魔王ハルカ(旧)

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 ルーファスも魔導学園で9年間勉強したのちに、滑り込みでクラウス魔導学院と呼ばれるエリート学校に進学することができた。恐らくルーファスは人生の運を全てここに注ぎ込んでしまったに違いない。
 ルーファスは今そのクラウス魔導学院の事務室にいた。
「あのぉ〜、ここの卒業生のルーファスというものですが、ちょっと用事があって来たんですけど?(なんか意味も無くドキドキするなぁ)」
 ルーファスの応対に当たったのは20代後半くらいの綺麗な女性だった。ルーファス曰くだが。
「(ルーファス? ……ルーファスってもしかして、へっぽこ魔導士ルーファス?)ルーファス様ですね。学園内に入るには腕に腕章を付けて頂く決まりになっておりますがよろしいですか?」
 この腕章は、来客を識別する以外にも騒ぎを起こそうとした者に罰を与えるための秘密が隠されている。
「あ、はい(この腕章知ってるよぉ〜、あんまり付けて欲しくないな)」
「では、腕を出して頂けますか?」
 ルーファスが腕を出すと、女性はルーファスの腕に魔法を架けて紅い腕章を作り出した。
「学院を出る際はここで腕章を解呪しますので、必ずここに戻ってきてください」
「は、はい、わかりました。それから、ペットのネコも学院内に入れても平気ですか?」
「構いませんよ、ペットはそのままお入りください」
 学院内に入って行くルーファスにお辞儀をする女性の後ろで静かな声がした。
「私にも腕章をしてもらおう」
 女性は思わずびくっとして後ろを振り向くとそこにいたのはカーシャが立っていた。
「カ、カーシャ先生!?(な、なんでこの人が!?)」
 カーシャは腕をさっと突き出した。
「早く」
「あ、あのカーシャ先生は学院内に入れるなと言われておりまして……(ブラックリストのトップに名前が載ってる人がわざわざ正面から尋ねてくるなんて)」
「……宣戦布告……宣戦布告だ。表向きにはクビではなくて依願退職となっているハズだが?(せっかく教員どもに私が来たことを教えてやろうという心遣いだったのだがな……しかたない)」
 カーシャの手のひらがさやしく女性の目元を多く隠した。ふっと女性の意識が飛び、床にゆっくりと倒れてしまった。
「勝手に上がらせてもらうぞ(ふふ……教員ども待ってろよ……特にヨハン・ファウスト!!)」

 魔導学院は今授業時間で廊下は静けさに満ち、時折教室から生徒の声が聞こえる程度だった。
 廊下を歩くルーファスは辺りをキョロキョロ見回しながら過去の思い出に浸っていた。
「懐かしいな……(そう言えばここでローゼンクロイツの毒電波攻撃を受けて、腹痛を起こしたんだった……いい思い出少ないな)」
「悠長なことをいっている暇は無い……私の不法侵入は既にバレている」
「!?(……いつの間にか横にいるよ)」
 ルーファスがビクっとして横を振り向くとカーシャがルーファスの歩調に合わせて歩いていた。
「事務の融通が利かなくてな、腕章を付けていない」
「……てことは?(教職員が侵入者を探してるってことか……侵入者がカーシャだって知ったら大変なことになるなぁ)」
 腕章を付けずに学院内に入ると、すぐさま学院内全体に張り巡らせれているセンサーの役割をしている魔法に引っかかり侵入がバレてしまう。
 廊下が急に騒がしくなった。怒号怒号怒号の足音。大勢が侵入者を探して走り回っているのだ。その足音を聞いた二人は近くにあった教室のドアを開けて乗り込んだ。
 急に扉を開けられた教師及び生徒一同は視線を一気にカーシャとその配下? に注がれた。
 カーシャは生徒たちに片手の手のひらを向けて魔力を貯めているのを見せ付けた。
「動くな!!」
 教室ジャックだった。生徒たちは動きを止め言葉を失う。だがこの場で一番唖然としてしまったのはルーファスだった。
「……な、なんてことするの!? 人質取ってどうするの、私たちはただハルカを元に戻すために来たんでしょ、騒ぎを起こしてどうすんの!?」
「ふふ……ハルカのことは二の次だ(まずは私の復讐からだ)」
 この会話を携帯用ペットハウスの中から聞いていたハルカの表情が曇る。中からは外の様子が見えないので余計に不安が募る。
「(……もしかして、外はすごいことになってるの?)」
 『もしかして』ではなかった。すごいことになっていた。
 この教室にいた女教師は新米らしく、カーシャとの直接の面識はなかった。だが、この学院ではカーシャとそのオプションのことは有名で、この新米教師にも二人の侵入者が誰なのかがわかった。
「カーシャさん……あの物騒な真似はよしていただけません?(な、なんでよりによってこの教室に……(泣)」
 新米教師就任以来最大の危機だった。
 カーシャが新米教師に視線をふと向け、生徒から気をそらした瞬間、生徒の一人がカーシャに向けて魔法で作ったエネルギー弾を発射した。だが、この場においての勇気ある行動は全体の命を危険にさらす。
 エネルギー弾はカーシャの手の甲によって軽く弾かれ教室の天井に穴を開けた。穴の空いた天井から見える青い空を見上げるカーシャの口元は歪んでいる。
「ふふ、私に撃ったのはおまえか?(ピンクのブタの刑だな……ふふ)」
 氷のように冷たい目をしたカーシャは、彼女に魔法を放った生徒の瞳を見つめてあることを念じた。すると見つめられた生徒の身体は見る見るうちに縮んでいき、その身体はピンクの短い毛で覆われて、周りの者たちが声を上げた時には、ピンクのブタに変身してしまっていた。
「他にブタにしてほしいものはいるか?」
 生徒たちは一斉に横に首を振った。そして、なぜかルーファスもおびえた表情で首を横に振っていた。
 ちなみにネコになったハルカに人間になる魔法をかけることも可能だが、それは根本的な解決にはならない。カーシャのこの魔法は時間制限があり、時間が経てば元の姿に戻ってしまうのだ。それに見た目はピンクのブタでも中身は人間であって、ハルカに魔法をかけた場合は、中身が猫で見た目が人間となる。着ぐるみを着ているのと変わらない。
 壁の砕ける爆発音を聞きつけた男の教師が教室に乗り込んできた。この男全身黒尽くめである。
「うるさい! 私の授業を妨害するのは誰だ!!(……カーシャ?)」
 教室に怒鳴り込んできたのは隣りの教室で悪魔召喚の実習授業を行っていた、ヨハン・ファウストだった。
 カーシャとファウストの間でピリピリした空気が流れている。しかも運の悪いことにルーファスは二人のちょうど真ん中に立っていた。
「(……ついてない)」
 そうルーファスはついてない。
 ファウストの身体からは目でもわかる黒いオーラが悶々と出ていた。カーシャからも目には見えないが肌で感じられる冷たいオーラが出ていた。まさに只今一色触発中だった。
 本能で今までに無いほどの危険を察知した新米教師及び生徒たちは、そーっと、できる限りにそーっと、音を立てずに教室を出て行った。だが、この場に取り残された人物がいる。言うまでも無いルーファスだ。
「(……な、なんで私を置いてみんな逃げるのぉ〜!?)」
 可哀想なことに二人のトンデモさんに挟まれたルーファスは身動き一つ許されなかった。