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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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大魔王ハルカ(旧)

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第2話_我輩は猫である


 ハルカがこっちの世界に来て、2週間以上の月日が流れようとしていた。もう2週間と言うべきか、まだ2週間と言うべきなのかは微妙だ。
 2週間の間にハルカはいろいろなことを経験した。居住区を半径1kmに渡って吹っ飛ばしてみたり、国立博物館で写本を盗んだり、ルーファスを殺人未遂してみたり、大魔王に身体を奪われたり、ろくなことがなかった。こう考えると、まだ2週間ほどしか経っていないと思えるかもしれない。
 そして、今ハルカはネコである。
 ネコになって2日が過ぎたが、この身体にも少しずつ慣れてきた。
「(でも、早く人間に戻りたい)」
 そんなことを思いながらハルカはルーファス宅の縁側でひなたぼっこをしていた。
「ハルカ餌だよ〜」
 遠くでしたルーファスの声がした。その声に誘われるままにルーファスの元へ四本の足で走って行く。
 ルーファスの足元まで来ると、ルーファスは手に持っていたお皿を床に置いた。お皿にはサラダとパンが少し乗っている。
「ハルカ、餌だよ」
「ネコ扱いしないでくれる?(餌って言い方ムカツク)」
「だってネコじゃん」
「身体はネコでも、中身は人間なんだから」
 これでも最初のルーファスの態度よりはマシになった。ネコになっての初めての食事でルーファスは、なんと、ハルカにペットフードを出したのだ。当然ハルカは激怒して引っ掻いてやったが、ルーファスは素でそれをやったらしいので、すぐにハルカは怒りを押えた。――そんこんなで今に至る。
 出された朝食を食べながらハルカは思う。
「(ネコじゃなくって、人間の身体に入れてくれればよかったのに……でも死んだ人間の身体に入るのはちょっと気が引けるかなぁ〜、出目金よりはマシだけど)」
 ハルカと同じく朝食を食べているルーファスがハルカに声を掛けて来た。
「たまには外出かけてきたら? ネコになってから外出てないでしょ?(健康に悪いからね)」
「ネコだから外出たくないの(ネコじゃ、なにもできないもん)」
 出たくないとは言ったものの、ハルカはやっぱり外に出かけることにした。少しは気分転換になるかもしれない。そう考えたからだ。
 外は冬の冷たい風が吹いていて少し肌寒かった。
 石畳の上をどこに行くでもなく歩くハルカ。横を人や馬車が通り過ぎて行く、ハルカに気を止めてくれる人は誰もいない。
 前方から灰色の毛を持ったネコがこちらに向かってくる。明らかにハルカに向かって歩いてきていた。
 灰色のネコはハルカの前まで来て、『にゃ〜ん』と鳴いた。もちろんハルカにはネコ語はわからない。
「(私に話し掛けてるみたいだけど……何言ってんだろ?)」
 灰色のネコは、また『にゃ〜ん』と鳴いた。
「(だから、何言ってんだかわかんないんだって……とにかく、にゃ〜んって鳴いてみようかな)……にゃ〜ん♪」
 灰色のネコ沈黙。人間の『にゃ〜ん』は所詮人間の声のようだ。
 灰色のネコしっぽ立てる。怒っているらしい。
 灰色のネコ『ふーっ』と鳴く。かなり怒っているらしい。
 灰色のネコ、ハルカに飛び掛る!
「(ま、マジで!?)」
 ハルカ逃げる。
「(なんで!? 何か悪いことした私!?)」
 ドリフトしながら人の間を抜けて、急カーブを見事に曲がり裏路地に逃げ込む。後ろを見ると灰色のネコがまだ追いかけて来ている。
「(しつこい!)」
 迷路のような裏路地を逃げ回るハルカ。そして、裏路地のお約束――行き止まりみたいな。
「(なんで、行き止まりなのぉ〜!?)」
 ハルカ的ショック!
 後ろは壁、前からは灰色のネコがジリジリとハルカに詰め寄ってくる。
「(コレってピンチ!?)」
 確認するまでも無い。ピンチである。
 後ず去るハルカと壁との距離がほとんど無くなった。それに加えて灰色のネコとの距離も狭まっている。
「誰か助けてぇ〜!!」
 悲痛の叫びをついつい上げてしまったハルカの横で、木でできたドアがギィィと鳴って中から人の顔が現れた。
「誰かいるの?」
 柔らかな声。ドアから覗いているのは小さな女の子だった。たぶん5歳〜7歳くらいだと思われる。
 ハルカは女の子を見つめる。まさに仔猫の瞳で助けを請う。
 女の子は状況を理解したらしく、灰色のネコを追いやってハルカを助けてくれた。
「(はぁ……助かった……えっ!?)」
 ホッと胸を撫で下ろしていたハルカの身体が持ち上げられた。上を見ると女の子の顔が直ぐそこに迫っている。
「あなたどこから来たの?」
「(どうしよう? 人間の言葉でしゃべったらマズイよね。でも、ネコみたいにうまく『にゃ〜ん』って鳴けないし)」
 女の子はあることに気付いた。ネコの首には首輪が付けられていて、それに付いているコインに何か文字が刻まれていた。
「ハルカ? ハルカって名前なんだね」
 首輪はカーシャがプレゼントしてくれた物だ。つまりカーシャもハルカのことをネコ扱いしているということになる。
 ニコニコが顔の女の子はハルカを抱きかかえたまま、家の中に入ってしまった。ハルカある意味軟禁?
 ハルカどうする? ハルカ頭猛スピード回転!
「(どうしたらいいの? 逃げなきゃ! 逃げた方がいいの? てゆーか逃げるべきなの!?)」
 ハルカ大混乱!?
 女の子はハルカをソファーの上に下ろすと、
「ミルク持ってきてあげるから待っていてね」 
 と言って姿を消した。逃げるチャンス到来!
「(逃げなきゃ!)」
 ソファーから飛び降りて玄関に向かう。廊下を走りぬけすぐに玄関まで来たが、そこである重大なことに気付いた。
「(ドア開けられない)」
 そう、ネコに玄関のドアを開けることはできない。しかも、玄関から律儀に出ようと思うなんてハルカらしい。
 引き返そうと後ろを振り返った時、手にミルクの入ったお皿を持った女の子と目が合った。
「(ヤバイ)」
「どうしたの? 待っててねって言ったでしょ?」
 ミルクを溢さないように女の子はゆっくりとハルカに近づいて来る。
「(ごめん)」
 ハルカはそう思いながら、女の子の横を猛ダッシュで擦り抜けて階段を駆け上がった。
 2階になぜ逃げたのかはハルカもわからない。だが、これだけは断言できる2階に逃げたのは失敗だった。
「(自ら逃げ場を無くしてどうするの!?)」
 ハルカの混乱は増していた。混乱が増してたついでにドアの開いていた部屋に逃げ込む。
「(どうしよう……そもそも、なんで私逃げてるの?)」
 そう、ハルカはなぜ逃げているのだろうか? ハルカもわかっていないことを他人はもっとわからない。
 階段を上ってくる音が聞こえる。ハルカにとってこの音は、死のカウントダウンに等しいくらいドキドキするものだった。
「どこ行っちゃったの?」
「(私のこと探してるよぉ〜)」
 女の子の足音が近づいて来る。そして、止まった。
「こんなところにいたぁ」
「(……見つかった)」
 辺りを見回してハルカは逃げ場を探してみるが……窓が開いているくらい。言うまでもないがここは2階である。落ちたら大変なことになる。
 逃げ場を失ったハルカは軽やかなネコの動きで窓枠に飛び乗った。
「(うわぁ〜、高いなぁ〜)」