大魔王ハルカ(旧)
「しかも穴に放り込む時、ジャイアントスイングだったな……(大モグラ……ふふ)」
「…………(なんで、カーシャさん余計なこと言わなくても)」
一瞬失笑したルーファスは、無言で立ち上がり裏庭へ向かった。
裏庭に着いたルーファスは、2本の材木をしばって十字を作って簡単な墓標を作って、土にぶっ刺すとどこかに行ってしまった。
ルーファスのことを追いかけてきて一部始終を見ているハルカは、ルーファスが何をやろうとしているのかさっぱりわからなかった。
「…………(誰のお墓作ってるんだろ?)」
ハルカが疑問に思い、ぼーっと空を見ていると、ルーファスが花束とペンキを持って帰って来た。
帰って来たルーファスが何をするのかとハルカは見ていると、ルーファスは立てた墓に何かを書いて花束を手向けると、その場で泣き崩れた。
ハルカがそっとルーファスの後ろに移動して、墓に書かれている文字を見るとそこには、
「(……ルーファスって書いてある?)まだ、恨んでるの?」
ハルカの声に反応して涙を浮かべながらルーファスが勢いよく振り向いた。
「あたりまえだろ!」
そう言ってルーファスは墓に書かれてる文字を指差した。
「いや、だから……それは(あはは)」
「私が死んだとと思って埋めようとしたって、どういうこと!?」
「(だからって、そんなお墓立てなくても、それって当てつけでしょ)でも、いいじゃないルーファスはそれだけど、私の身体はこれなんだから」
ハルカはルーファスの身体を指して、そして自分を指さして言葉を続けた。
「家には帰れないし、こんな身体になっちゃうし、どうしてくれるのよ!」
「確かに家に帰れないのは謝るけど……その身体になったのはカーシャのせいでしょ?」
「そのカーシャさんは今どこに居るの?」
「ここだ」
「わっ! ……ビックリさせないでくださいよ(なんでいつもこの人幽霊みたいなあらわれかたするんだろ?)。あの、カーシャさん」
ハルカはちょっと不満たらたらな顔をしてカーシャを見つめている。
「何だ?」
「カーシャさんが『死者の召喚』なんてしなかったらこんなことにならなかったんじゃないですか?」
「……終わったことだ気にするな(……ふっ……真実は言えない)」
真実って何だカーシャ! 隠し事か!!
ハルカは自ら堪忍袋の緒を切った。
「『気にするな』って、この身体どうしてくれるんですか!(無責任)」
「みんな生きていたんだ細かいことは気にするな」
ルーファスもそれに腕組みながら、うんうんと同意する。
「そうそう」
バッシーン!! という音が辺りに鳴り響いた。ルーファスの頬が真っ赤に染まった。
ハルカは思わず大きな声で叫んだ。
「よくなーい!!」
当たり前だ。ハルカにしてみればまったくもって良くない出来事だ。だが、ルーファスは完全に八つ当たりで叩かれている。
ちなみにマナの状態にあっても魔力が強ければ物に触れることは可能らしい。カーシャちゃん曰くだが、さっきの紙芝居で言っていた。
ハルカは家に帰れないどころか、身体まで失ってしまったのだ。まさに不幸のどん底と言ってもいい。だが、そこにカーシャはお得意の留めを刺す。
「一つ、さっきの説明でしていなかった重大なことがある。……このままだとハルカは消えてしまう(これはマナの還元理論の応用なのだが、二人に説明してもわからんだろうな。特にへっぽこには。)」
「「えぇーーーっ」」
カーシャの言葉を聞いて二人は声を合わせて驚いた。これは緊急事態だ。ハルカが消えてしまうなんて……なぜそれを早く言わない!?
ハルカはカーシャの襟首を掴むとぶんぶんと揺らした。局地的大地震、マグニチュード7.0くらいか?
「どういうことですか!? 私が消えるってどういうことなんですか〜っ!?」
ぶんぶん振られるカーシャはハルカと顔を合わせようとしない。
「さ〜て、どうしたものかな?」
カーシャは無表情のまま他人事のように言った。だが、この事態を引き起こしたのはカーシャだ、責任逃れは出来ない。
「どうしたもんかなじゃないですよ!! ルーファスも考えてもよ、あんたも魔導士なんでしょ(へっぽこだけど)」
「考えてって言われても……(魔導学院のときの成績悪かったからなぁ〜あはは)」
ルーファスは役立たずだった。
まだまだ局地的地震がカーシャを襲っていた。
「カーシャさん、どうにかしてくださいよ!!
「……方法が無い事も無い。だが、一時的な応急手段だがな」
そんなわけで一時的な応急手段を取る為にハルカはカーシャに連れられてカーシャちゃん宅に行くことになった。ちなみにルーファスは生活に必要最低限の物を買出しに出かけるので別行動。
カーシャの家の中は暗かった。まだ昼間だというのにロウソクの光が室内を照らしている。
「(よく、こんなところで生活できるなぁ〜)」
ゴン! 案の定、お約束でハルカは何かに頭をぶつけた。
「いた〜い……(何にぶつかったの?)」
「気をつけろ、散らかっているからな」
ゴン! ハルカは今度は足をぶつけた。
「いた〜い、カーシャさん掃除とかしてるんですか?」
「してない(掃除なんて生まれてから一度もしたことがない)」
掃除をしたことがないってどういことですか? 汚いよカーシャ!
物にぶつかること数十回、ハルカようやくカーシャに連れられて、ある部屋に着いた。
この部屋は先程よりは明るい。ロウソクの光ではなく、部屋全体がぽわぁ〜と光っている。
ハルカは部屋中を見回した。部屋には2本の大きな円筒形の硝子でできているような入れ物があり、管の中は液体のような物で満たされ、下から小さな気泡が上へ上がっている。そして、その中には片方に出目金、もう片方には黒猫が入っていた。
「なんですか、あれ?」
ごもっとも質問に対して、カーシャも質問で返す。
「どっちがいい?」
カーシャは出目金と黒猫の方を指差している。つまり、どっちが好きかということなのか?
「どっちって? 何がですか?」
「あれは私のペットの出目金と黒猫だ(ちなみに、ジェファーソンとマリリンという名前だった)。もう既に死んでいるものを腐らないように保管してある」
「だから、どういうことですか?」
「どっちが好きかと聞いているのだ(私のおすすめは出目金だ)」
「……黒猫(ちょっとやな予感)」
「では、黒猫の身体を使おう(出目金がおすすめだったのだがな……しかたない)」
「使うってどういうことですか?」
「あの身体の中に入ってもらう(本来はいつか生き返らせてあげるために保管しておいたのだが、死者の召喚が失敗したのでな……ふふ、衝撃の告白)」
な、なんと、カーシャは黒猫と出目金を生き返られるために死者の召喚をしようとしたのだ。
ハルカしばしの沈黙。
「…………(私にネコになれってこと?)」
「では、始めるか(ひさしぶりの実験だ……ふふ、魔導学院をクビになってから、おもしろい実験はしていなかったからな……ふふ)」
カーシャの口の端が少し上がった。カーシャがこの不適な笑みをやると本当に恐い。だって何が起こるかわかないもん。
「カ、カーシャさん、始めるって何をですか?(な、なんで不適に笑ってるの!?)」
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)