大魔王ハルカ(旧)
そう言った魔王が両手を天高く上げると、魔王の身体が激しく輝き出した。マナが魔王の全身に凄い勢いで吸収されていくのが見て取れる。
カーシャは明らかにイヤな顔をした。
「(不吉な予感……ふふ)」
それに続いてルーファスの背筋に寒気が走った。
「(魔導砲と同じ位のマナの波動!?)」
魔王の手の上に紅蓮の業火が渦を巻きどんどん大きくなっていく。
「グハハ、これで終わりだ……ギガフレア!!」
カーシャは悟った。
「(死んだな……ふふ……儚い)」
魔王が魔法を放とうとした刹那、それを止める声が……。
「やめてぇーーーっ!!!」
その言葉に魔王の放ったギガフレアの軌道が狙いから反れ、エビ反りをしたルーファスの上を飛んで行き、空の彼方へ飛んで行った。
魔王は自らの身体を抱きかかえ、地面を転げ周り暴れ始めた。
「ルーファス、魔王の様子がおかしいぞ」
「(今度こそは死んだと思った)えっ何?」
魔王は苦しそうだった。しかし、その身体から発せられた声には苦しさの微塵も……いや、別人の声が!
「早く、今のうちにコイツを倒して!」
「ハルカ!」
ルーファスは思わず叫んだ。そして、カーシャの顔つきも変わる。
「ハルカの声だな(幽霊か?)」
二人の耳には確かにハルカの声が……そして、
「早く、私の意識があるうちに……邪魔をするな女……早く殺して……」
二つの声が交互に発せられていく。これを聴いたカーシャは、
「(腹話術!?)」
と思った。
「グググ……邪魔をするな女!!」
魔王は尚も地面の上でもがき苦しんでいる。
カーシャの怒号がルーファスに浴びせられる。
「何をしているルーファス! 身体の持つ限り魔王を打て!」
カーシャは魔法を身体の持つ限り打ちまくった。ルーファスもそれに続いて魔法を打ちまくる。
「ホワイトブレス(カーシャ)&メガフレア(ルーファス)」
(カーシャちゃんネーミング)氷炎爆華散が魔王の身体に何発も何発も打ち込まれ、辺りを砂煙が覆い隠す。
「はぁ……はぁ……」
肩を大きく揺らすルーファスの息は上がり、彼は地面に倒れるように座り込んだ。
「ルーファス、生きてるか?」
ルーファスがカーシャの方を見ると、彼女もまた地面に座り込み息を切らしていた。
カーシャは極度の疲れで血走った目で魔王を見て言った。
「あれだけやれば……魔王も……!?」
カーシャの顔色が蒼ざめて行った。
「グゲゲ……その程度で死ぬものか!」
魔王の身体は無傷とは言えないもののその足で立ち上がり、狂気の目で二人を睨みつけていた。
「「あははは……」」(ルーファス&カーシャ)
二人の乾いた笑いが辺りに鳴り響く……。
魔王の身体の各部は失われており、蒼い血が地面に滴り落ちる。
それを見ているルーファスとカーシャは以前、不気味な笑いを発していた。
「グゲゲ……俺は体内の核ごと消し飛ばさない限り死ぬことは無い」
そう言って、魔王は手を大きく振り上げ、その鋭い爪をルーファスに振り下ろそうとする。
「逃げてルーファス!!」
ハルカの声が辺りに鳴り響くが魔王の手は無常にもルーファスに振り下ろされた。
極度の疲労によってルーファスは逃げことが出来ない! そして……地面を血しぶきが紅く彩る。……世界から音が消えた。
ルーファスの身体がバタンと地面に転がった。生命を持たない人形のように……。
「ルーファス!!」
カーシャの叫びで世界に音が戻った。
「ククク……次はおまえだ」
カーシャが不敵な笑みを浮かべ魔王を見上げる。
「これだけはしたくなかったが……」
カーシャはそう言って自分の両耳にしていたイヤリングを外した、その途端カーシャの身体が蒼白く輝きはじめた。その輝きは冷たく辺りを包み込んだ。
そして、カーシャの身体に変化が起きた。彼女の瞳は黒から蒼に変わり、唇は赤から紫に変り、髪は漆黒から白銀に……。
魔王の瞳が見開かれ、驚愕の表情を浮かべこう言った。
「おまえ……まさか氷の女王か!? ……しかし、あいつは……?」
「ほう……私のことを知っているのか?」
カーシャの声は冷たく澄んでいるが重たく威圧感が矛盾に満ちた声であった。
「なぜだ? 氷の女王は……!?」
「そうだ……だから、このチカラを使えば私の命は無いだろう……ふふ」
立ち上がることすらできないほど疲労困憊していた筈のカーシャはゆっくり立ち上がり、魔王にジリジリと近づいていく。
魔王は近づいてくるカーシャに鋭い爪を振り下ろそうとしたがハルカがそれを止めた。
「カーシャさん……今のうちに……」
「ふっ……ありがとうハルカ……」
「グググ……身体が動かせなくとも……おまえの魔法などでは俺は……」
「これならどうだ?」
カーシャは魔王の口の中に手を突っ込む同時に魔法を唱えた。
「ギガブリザード!!」
カーシャは魔王のさっき言った言葉『体内の核ごと消し飛ばさない限り死ぬことは無い』という言葉をヒントを得て、魔王の体内に直接魔法を打ち込んでやったのだ。
魔王の身体は一瞬のうちに氷つき、鋭い音を立てて砕け散った。そのときハルカの声が……。
「みんな……さよなら……」
そして、全てのチカラを使ったカーシャの身体は水と化し大地に染み込まれていった。
魔王との戦いは終わりを迎え、そして……。
数日の時が経った。魔王によって破壊された街は国民全員の協力により、元どおりに再建されつつあった。
ルーファスは再建された自宅の裏庭にいた。
「(あれから、どの位たったのか……昨日のことのようだな)」
ルーファスは裏庭に立てられた墓に綺麗な花を捧げると、その場で泣き崩れた。
墓石には『ルーファス』と刻み込まれている……あれ? ……ルーファス?
ルーファスは後ろから女性に声をかけられた。
「まだ、恨んでるの?」
ルーファスが後ろを振り向くと、そこには何とハルカの姿が!? ……あれ? ……ハルカ?
「あたりまえだろ!」
そう言ってルーファスは墓に書かれてる文字を指差した。そこにはやっぱり『ルーファス』の文字が?
ハルカは惚けた顔しながら上を見上げた。
「いや、だから……それは(あはは)」
「私が死んだとと思って埋めようとしたって、どういうこと!?」
「(だからって、そんなお墓立てなくても、それって当てつけでしょ)でも、いいじゃないルーファスはそれだけど、私の身体はこれなんだから」
ハルカはルーファスの身体を指して、そして自分を指さした。
ハルカの身体はルーファスとは明らかに違った。どう見てもハルカの身体は半透明だった……しかし、足はある……だからと言って幽霊ではないとは言い切れないが、彼女はとりあえず幽霊ではない。
「家には帰れないし、こんな身体になっちゃうし、どうしてくれるのよ!」
「確かに家に帰れないのは謝るけど……その身体になったのはカーシャのせいでしょ?」
「そのカーシャさんは今どこに居るの?」
「ここだ」
「わっ! ……ビックリさせないでくださいよ(なんでいつもこの人幽霊みたいなあらわれかたするんだろ?)」
あれ? ……なんで? ……どうやら全員とりあえず生きていたらしい?
どうして全員生きていたのだろうか……?
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)