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ぼくらはいつも優等生

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「おいリズム!」
「テンション上がりすぎた、正直反省している」


曲が終わって真っ先に後ろを振り返った2人に遼が笑う。


「まぁ最初から最後までお前ららしいっつかなぁ・・・迫は途中でピック投げて指弾きするし相変わらずヒロはリズム走るし、結弦はリフ前に一瞬溜める癖直らねーし」
「・・・良く言えば持ち味で悪く言えば短所だな」
「キーボード使うスコア持ってっか?俺も楽しくなってきた」


机の上に無造作に放り出されたスコアをぱらぱらとめくる。
お、と小さく呟いたページを端を内側に折り込む。


「ちょっと遼それやめようよ、俺のぐしゃぐしゃになんじゃん」
「知るか」
「うわ3文字で片付けるとか」
「印刷してきまーす」
「聞いて!?」


やはり押しただけでは開かないドアを膝で蹴り開けると蝶番が片方がたんと外れた。
器用なバランスで傾いたドアをちらりと一瞥すると、電源を切ってからぶつりと強引にアンプからコードを引き抜いた。


「あれ、ゆーもう終わんの?」
「ちょっとタイムサービス行ってくる」


財布と携帯だけを制服の後ろポケットに入れて、ドアを隙間を通り抜けるようにして出ていく。残された宏人と晴樹は先ほどの演奏の反省会である。


「だからお前さ、ちゃんとメトロでリズム取ったのに最初からずれるってどういうことだよ」
「しょうがないじゃん始まったらなんかテンションってか血圧上がってどうしようもなかったんだから」
「俺らリズム隊でもあんだからさ、もうちょいこう・・・な!?」
「へーい・・・だけどさぁ、迫だって結構音抜かしてたじゃんよ!」
「お前に言われたかねー!」


反省会と言うよりは責任のなすりつけあいになっていることに気づいているのか気づいていないのか、なおも勝敗の決まらない口論を続けていると、四つ折りの紙を持った遼が入ってきた。


「何?またヒロが変なこと言ったのか?」
「いや、なんかタイムサービス行ってくるって・・・つか馬鹿とかね、」
「主婦かよ」


四つ折りをそれぞれ反対側に折って凹凸をなくす。
ページごとに床に置く、勝手に持っていけのサインらしい。


「げー、これ難しいじゃん・・・つかなんか男子4人でやるには超しょっぱい・・・」
「言うなそれは言うな」
「俺はこれをあいつがどんな顔で歌うのか見たい」
「・・・やばい一気にやる気出てきた」


にやにや笑う宏人の横で、携帯の画面を見ていた晴樹がにんまりと笑う。


「ふっふっふ」
「迫きもい」
「・・・そういや俺の彼女が先日ここに入ったんだよ」
「あー、お前がそのために留年したとか違うとかいう。迫の彼女とかまじボランティアだな」
「おい遼聞こえてるぞ」


晴樹と遼は留年している。
本来なら宏人と結弦の1つ上で、彼らが2年生に進級する頃に3年生になるはずだったのだが、何故か同学年になってしまった。
2人とも圧倒的な出席日数不足である。
靴ひもの色もジャージの色も違うのだが、同学年。
学校側の陰謀でめんどくさい奴らを1クラスにまとめてしまおう、と何ともご都合主義のような展開で彼らは3年2組で担任教師を胃痛に悩ませているということになる。
ちなみにいろんな意味で頭のおかしい宏人・遼・晴樹は教師陣から3馬鹿トリオと呼ばれている。


「あーもしもし?何、アイス?俺ガリガリかホームランバー・・・ってかジャンプ、あ、ジャンプは無理?そっかー・・・うん、うん・・・え、今何て!?」
「うっせぇよ」
「もーやだー電話でそんな可愛いこと言わないでよ!ちょっと待って今出るから、うんはいはい」


どうやらタイムサービス戦線を終えたらしい連絡ににこにこしながら飲みかけのブリックを持って宏人が外に出たのとほぼ同時に晴樹の携帯が鳴る。


「・・・終わったん?ああ今日ミーティングだけや言うとったもんな。今どこなん?武道館?おお分かった、気ぃつけんやで、家に帰るまでが遠足やからな」
「・・・・・」
「何だよ」
「お前超面白い」
「は?」
「方言は知ってたけどまじ声やばいだろ、どんだけ溺愛だっつの」


肩を震わせて遼が笑う。
空になったペプシの缶とサッポロポテトの袋をごみ箱に放って晴樹が立ち上がる。


「飲み物買ってくるわ。友達と帰る言われた腹いせにペットボトル買ってやる」
「いてらー」


正規部員が一人もいなくなった。
残された科学部員は何をするでもなく、私物化された棚に並んだ持ち主不明のジャンプタワーを眺めたり窓の開閉を繰り返してみたりと他のメンバーがいるときと変わらないフリーダムさである。
そんな中、この微妙なタイミングで何かがぶつかるような鈍い音がした。






作品名:ぼくらはいつも優等生 作家名:蜜井