ぼくらはいつも優等生
「うーす」
文化部の拠点がある部室棟、通称旧館。
3階の一番奥。
雑に切り取られたノートにボールペンで殴り書かれた、お世辞にも綺麗とは言えない字。
「迫遅い!合わせんよ」
「何が遅いだよ、お前がさぼった掃除当番だろうが」
「えっへへ」
「・・・あれ、結弦は?」
「保健室。弦張り替えてて指切って、なんかめっちゃ血出てグロかったから行かせた」
「それでいけんのか」
「いけるでしょ。ピック持つし。チューニング合わせといてねー」
軽音部。
現在の部員は3名、部と言うよりももはや同好会のような人口密度。
だが本当にその人数しかいないのか、というような雑然とした部室。
その答えは正しくもあり否でもある。
弦を弾く音が細切れに聞こえてくる。
「あーもう新しいスティック買っちゃおうかなー」
軽音部部長・向野宏人。
「そういやこないだ置いてったカポってどこ行ったわけ」
軽音部員・迫井晴樹。
「ヒロ、お前英語の小テスト前代未聞の2点だって先生凹んでたぞー」
「げぇっ」
「こいつらでも合格したというのに」
「うえー・・・あ、ゆー大丈夫!?」
「突進してくるな」
「いだっ」
建てつけの悪いドアを強引にこじ開けて2人が入ってくる。
科学部員・金谷遼。
軽音部副部長・城崎結弦。
これで4人。
「大丈夫か?」
「別にそれほど痛くないし」
「おま、シャツがジェネラルに」
「・・・姉さんに怒られそうだな」
「そこかい」
絆創膏の下に貼られたマスキングテープのような薄いテープ。
後ろから覗き込んでそのテープを少しだけ持ち上げる、ぱっくり裂けた皮膚に宏人が顔をしかめる。
「ああだめだ痛い」
「お前が痛がってどうすんだよ・・・こっちはあらかたチューニングしたけど」
「んー・・・やろっか。遼はどうすんの、弾く?」
「めんどいから見てる」
「そ」
床に置いていたスティックを拾い上げてシャープペンを回すように指先でくるくると弄ぶ。
アンプの音量を確かめるようにスピーカーに耳を近づけたあと、ストラップを通す。
スコアとコード進行、書き込みをなぞりながらの最終確認。
「さ、行こ!」
「よっしゃ」
「いつでも」
スティックがカウントを刻む。
初期微動の重低音、回るタムとドラムロール。
走りがちのリズムに聞こえる2種類の舌打ちは音の波にかき消えた。
小さく息を吸う。
『――――――、』
作品名:ぼくらはいつも優等生 作家名:蜜井