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close your eyes-瞳を閉じて-

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「そのプリクラに写っていた二人の片方にひらがなで「おり」って書いてあったの。そしてその横で笑っている男の子がいた。……あれは、悠くんだよね……」
瑠璃は瞳に涙を浮かべながら、共感するかのように話を続ける。プリクラ、か。とったな、そういえば。たった一回しかいかなかったけど。





「ほーら、お二人さんで撮ってきなっ」
浅村は気を利かせたつもりなのか、ウィンクしながら俺たちの背中を押す。
「舞、俺らも後で取ろうぜ」
「ヤだよキモい。」
浅村は祐介の提案をバッサリ切り捨て、近くのアイスクリームを売っている屋台に走っていった。
「え、ちょっ、舞ぃ!……そりゃねーぜ……。」
祐介は渋々浅村の後を追う。

「……えっと……。」
少し照れながら彼女は俺の手をとった。
「行こっ……か……?」
俺は恥ずかしくなってそっぽを向いたが、織がそんな俺の態度に頬を膨らませ、プリント機械の中に入っていってしまったので、仕方なく入る。

「じゃあとるね……。」
準備が整ったらしい織はうずうずと早く撮りたそうにしている。
「おう」
一言答えると、織はボタンを押す。

「「…………」」
数秒の空白。


「あ、あれ?」
織が慌しくまた機械をいじろうとする。とうとう耐え切れなくなって俺は笑ってしまった。

カシャッ

「うわっ」
いきなり取れたので織が驚いて転びそうになる。
伸ばした手にちょうど収まった。収まったのはよかった。が。

「……ぁ……」

吐息が触れ合う距離。

惹かれあうように俺達はキスをした。





そんな甘い思い出がよぎると、瑠璃が目の前で泣いているというのに、俺は不謹慎にも笑ってしまった。いや、ニヤけてしまった。
「……どうしたの?」
涙を拭きながら聞く瑠璃に、こんな修羅場の中、張本人となっている俺が、その原因の女の子とのキスを思い出してニヤけているなんていえなかった。とんでもない。

「なんでもないよ。だいたい、この問題は俺の抱えている事が原因だ。今回はむしゃくしゃして殴っただけだ。もうしないよ。」

「でも私を見て織さんを思い出したんじゃないの……?」
瑠璃はさらに暗い顔をする。
確かにそうだ。でも今はなんともないし、それなら俺はそれこそ女の子なら誰をみたって思い出しそうなものだ。それに瑠璃に変に気を使わせるのも悪い。
「それは違うよ。大体似てないだろ……。それに俺は単に寂しいだけなのだろう。」
「寂しい?」
「ああ。だって誰しも好きな女の子と別れたり、女の子が引っ越したり、……死んだりすればそりゃ悲しいだろう。でもさ、結局はそんなのは違う何かで埋めていかなきゃならないのだと思う。俺はそれがわからなかったからこんな幼稚な行動に走ったんだよ。」

そう、俺の甘さが、俺の行動を生み出した。俺が自分をコントロールできなかったから。


「それでも、大事な人がいなくなったら悲しいよ」

瑠璃は真っ直ぐ俺を見た。その瞳は震えていて、今にも崩れ落ちそうな儚さを秘めていた。

「それでも俺は前を見る。抱え込んだ悲しみが、憎しみが、痛みが、妬みが、俺の心を削っていっても、磨り減って心がなくなってしまうまで俺は前をみる。」


そう今決めたんだ。君がそんな顔をするから、また俺は大事なものを作ってしまった。


気づけば俺は瑠璃を抱きしめていた。ついさっきまで取調べを受けていたことも忘れ、この気がめいるほどに灰色な部屋で。


「心配ねぇよ。……俺のことは心配要らない。」


瑠璃は不安そうに俺の顔を見上げてくる。

「……ホント?」


「あぁ。もう大丈夫だ。お前の顔みていたら元気が出てきた。」

今このときの心の安らぎだけは、きっと本物だから。




翌日、俺は釈放となった。向こうが始めにおちょくってきた事もあり、向こうの家族と話し合ってなかったことにしてくれた。
最後には家族に頭を下げられ、俺が殴った二人は居心地が悪そうに煙草を吸ってくると言ってどこかへいってしまった。



あぁ、何もかも解決した。もう苦しむ要因なんてない。


なのに、まだ俺の心は晴れていない。まるで呪いのように。











Ein Kapitel #4「chance of dreamlike ?夢邂逅?」


「神楽さん?」

彼の声で私の意識は戻ってきた。夢でも見ていた気がする。

「あ、すみません」

三島さんは私の顔色を窺っている。純粋に心配してくれているのだろう。周りを見ると、院内のプレハブの建物に続く渡り廊下を歩いていた。新しい椅子と机を運び出す作業をしに行くところだったのだ。

「……大丈夫かい? 複雑そうな顔しているけど」
「はい、大丈夫です。……私のことは心配ありません。」

三島さんはふむ、とだけ言って顎に手をやった。それから少し不満げな眼差しで私を見やる。

「……その物言いを僕はよく知っている。その物の言い方をする人に限っては大丈夫な人はいないと僕は確信しているのだけどねぇ」

彼の言っている言葉の意味とさびしそうな顔を見て、私はなおさら彼の言葉の意図するところを理解できなかった。私の言葉が不味かったのだろうか。

「あの……、言っている意味がわからないのですけど……?」

「ああ、気にしないでくれ。ただ僕の大嫌いな親友によく似た喋り方するものだからちょっとね。気を悪くしたなら謝るよ。」

「親友?」
大嫌いな、という部分はあえて触れないでおこう。

「高校ぐらいまで一緒でね。自分のことを好きになった女の子をほっぽって消息を絶った馬鹿野郎の話で…」
さ、と言おうとしたところで三島さんは固まった。その顔があまりにも真剣で、私は思わず立ち止まってしまう。三島 聡。私とは同い年で、この老人ホームへと、配属前の研修を行いにやってきた私と同期の男性だ。端正な顔立ちをしていて、場を盛り上げたりするのも得意だが、普段は大人っぽい。同い年とは思えない思慮深さだ。

「そういえばアイツが最後に口にしていた、好いてくれた女の子もルリって名前だったな……。」

そんな話を聞くと否が応でも三年前を思い出して私は自嘲しそうになった。

「あはは、それはずいぶんとまた面白い話ですね。私にもそんな男の子がいたのですよ。突然姿消しちゃう困った人で……」

三年たった今でも思い出しただけで泣きそうになる。あの時のことを思うと。

***


一連の騒動が終わった後、悠君は釈放され、私は悠君の家にお邪魔した。
「……。」
「……。」
お互いに会話もなくただ時間だけが流れていく。悠君は疲れ切った目でカーテン越しの青空を見上げていた。白のカーテンはところどころ埃や染みで汚れている。空の青は晴れ渡っていて、逆に目が痛い。

「悠くん」
呼んだが返事はない。それでも私は話を続けた。

「私ね、貴方にずっと言いたかったことがあったの」
ゆったりと顔をこちらに傾けてくるが、顔は蒼白で、廃人のような状態だった。
「私ね、ずっと考えていたの。悠くんはどうして私を助けてくれたのだろうって」
怪訝な顔をこちらに向け、悠くんは自嘲気味に笑った。
「……助けた?俺は何もしていない。何もできていない」
作品名:close your eyes-瞳を閉じて- 作家名:紅蓮