小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Childlike wonder[Episode1]

INDEX|13ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 

 圧倒的な力でバーニィ、それにQJまで倒されてしまうし、ナターリヤも青白い顔でそれを見ているしかできない。レス・レスも両膝をついて睨みつけているだけだし、マイケルもおろおろしながら困り果てている。
「アダム様がこの街を支配するには、お前たちの存在は邪魔だ」
ヴィクトワールが飛び出した。その勢いを乗せて、ショートソードをぐんと突き出そうとする。

 ……アッシュ……困っている人を助けてあげるような、立派な大人に……なってね……。

(……だめだ、俺が戦わなくちゃだめなんだ……っ!)

「俺は、守るために戦う……っ!」
 飛び込んでくるヴィクトワールに、アッシュも飛び込んでゆく。
「!」
 突然の出来事に、ヴィクトワールは反応はしたが対応はできない。
 アッシュの左手がヴィクトワールの右手を包むように掴む。そのまま飛び込んだ勢いを乗せて、ヴィクトワールの顎に頭突きをかました。衝撃に銀の長い髪が揺れる。
「……っ!」
「さっきはありがとう、これがお返しだっ!」
 ヴィクトワールは半歩後ろずさりながら、唇の端からこぼれた血をぐっと拭う。
「助けてもらったのに悪いけど、これ以上はやらせない。俺がみんなを守るんだ!」
「……ほう?」
 アッシュの声にヴィクトワールは微笑みながら、チャイナシューズの右のつま先を、とんっと地面に当てる。靴の履き心地を調整して、それから右足をだん、と地面へ踏みしめた。それから続けて、左足も同じようにしてみせる。
 その動作にはいくらでも隙があったはずだ。だが、彼女をまとう威圧間に、誰も何も仕掛けることができなかった。
「……面白い。我の見込みは間違っていなかったようだな」
「アッシュ!」
 ナターリヤが、ランドセルから何かを取り出す。ずずず、と引き出される、それは。
 全長一メートルはある、巨大な十手だった。
「OK、助かる! ……つか、よく入ってたなコレ……」
「ワタシの能力がいかにすごいか、分かった?」
「ああ」
 ぞんざいに答えて、アッシュは放り投げられた十手を眼前で構える。
 ……重くはない。そして軽すぎない。むしろ、自分のために作られたと思えるほど馴染む。
「準備は整ったか?」
 ヴィクトワールが不敵に微笑みながら言う。
 そう、彼女はナターリヤがアッシュに武器を渡すのを、分かっていながらあえて見ていたのだ。その余裕は、恐ろしさを募らせる以外の何者でも無かった。
「行くぞ!」
 アッシュが十手を振りかざしながら飛び出す。まるで手に吸いつくような使い心地がそれを助けてくれた。
「笑止」
 十手が上段から振り下されるのに合わせて、ヴィクトワールはバックラーを振り上げる。頭を狙ったそれに裏拳を当てるようにバックラーを振り、優しく触れるように当ててやる。地面に対してほぼ垂直に角度をつけてやり、外に押しのけながら垂直に戻してゆく。
「!」
 どぉん、と十手の剣身が地面に叩きつけられた。
(……剣がまったく触れた気がしなかった……!)
 アッシュは驚愕する。
  あまりにも艶やかで美しい、その動きに。
「その程度でアダム様に歯向かうなど」
 ヴィクトワールが、剣を持った右腕を右へと大きく薙ぎ払う。アッシュには、そのあまりの速さに何も見えなかった。

 ただ、胸に走る一筋の熱い、熱。

「アッシューーーっ!」
 ナターリヤが叫ぶ声を、アッシュは遠くに聞いていた。まるで眠りの真っ最中、起こす者の声が夢の中でも聞こえたかのように。
「……!」
 ばしゃっ、と飛沫が散った。
 胸についた横一文字の傷から、血が噴き出したのだ。
「遅い……」
 ヴィクトワールは剣を床に向けてぶんと振る。剣身についたアッシュの血が勢いで床に飛び散り、赤いマーブル模様を描く。
「うぐ……!」
 がくり、とアッシュは両膝を落とす。

 ……正直、甘く見ていた。

 戦いはそんな生優しいもんじゃなかった。
 切られれば痛いし、もしかしたら死ぬかもしれない。

 守るとか言いながら、俺は何の役にも立ってないじゃないか……!

「ダメっ!」
 ナターリヤの叫び声にアッシュはハッと我に返る。目の前に、ナターリヤとマイケルが両手を広げて、立ちはだかっていた。
「これ以上アッシュを傷つけるのはダメっ! ワタシはアッシュのお姉さんだから、守らなきゃいけないのヨっ!」
「……ナターリヤ……!」
 アッシュは胸の痛みをそのままに、呆けたような目でナターリヤの背中を見つめていた。
(……俺は一体何をしてるんだ)
 アッシュは、自分のふがいなさに押しつぶされそうになっていた。自分より年上とはいえ、女の子に自分が守られているという事実に。
「友情……か」
 ヴィクトワールは目を伏せて、答えなかった。懐かしむような、振り返るような、ノスタルジックな微笑みをたたえている。
「……だが、そんなものでは勝利は掴めぬ!」
 ヴィクトワールが一歩踏み出した。バックラーを着けた左手を振りかざし、殴りつける。ナターリヤとマイケルはその衝撃に吹き飛んで倒れた。
「! 大丈夫か!」
 アッシュは慌てて駆け寄る。ただ殴られただけではあったが、頭部を激しく揺らされており、二人は意識が朦朧としているようだった。
「アッシュ……ごめんネ……」
「ばか! 大丈夫だ、必ず勝てる……!」
 ナターリヤの肩を抱きながら、アッシュは力強く言う。キャラメル色のポニーテールが揺れ、ガーベラの甘い香りが広がった。
 とはいえ、アッシュにも勝機があるわけではなかった。

 ……どうする?

 どうすれば勝てる?
 ヴィクトワールは動きがあまりにも早い。なんとか動きを止めて、攻撃に転じなければ……!

 ……そうだ、こっちは三人もいるんだ。
 きっと、なんとかなる……!

「……ナターリヤ、ワイヤーであいつの動きを止めれるか?」
 アッシュは小声で、ナターリヤの耳元で囁く。
「う、ウン……」
「マイケル、お前の怪力でナターリヤと一緒にワイヤをしっかり握っていてくれ。俺が奴を引き付けるから、そのうちに頼む」
 アッシュはそれだけ言うと、ゆっくりと堂々と立ち上がった。それから十手をぶんと振ると、剣先をヴィクトワールに突きつけた。
(……? 眼つきが変わったか)
 ヴィクトワールは、見抜いていた。先ほどまでのアッシュの瞳は闇雲な勝ち気だけだったが、今は違う。
 "確信"を得た目に変わっていた。
「我が目覚めさせてしまったか。――面白い」
 ヴィクトワールは独りごちて、唇の血を舐める。それから不敵に笑った。
「どう出るか、楽しみだ」
「うおおおぉぉぉぉっ!」
 アッシュの十手が、炎に包まれてゆく。その能力で炎をまとわせたのだ。
「俺は負けるわけにはいかないんだあっ!」
 次の瞬間アッシュは飛び出し、ナターリヤとマイケルが左右に散開する。それに気づいてヴィクトワールは中段に構える。
「うりゃあぁぁっ!」
 アッシュは十手を振り上げて、正面から斬りかかってゆく。ヴィクトワールはそれをバックラーでいなす。だが、アッシュはすぐに体制を整え、さらに斬りかかってゆく。
「くっ……!」
 アッシュの攻撃は、けして優れたものではない。
作品名:Childlike wonder[Episode1] 作家名:勇魚