えすぱーと一般people!
考えもしなかった答えに思わず聞き返してしまった。
「ええ。とってもおいしいですよ」
「は、はあ」
お客様の気分を害することはしてはいけないと解ってはいるが、脳内で油揚げ単体がはたして
好物を挙げるときの選択肢に入るのかどうか検討してしまう譜都。
挙げるとしても、稲荷寿司など料理名で言うのが通常ではないのか。
「つきましたよ、ここです」
物思いから波原さんの声で、我に帰った譜都。
そこは、街頭もろくに灯ってない暗い道だった。
かろうじで見えるのは目の前に居る波原さんの後ろ姿と、両脇にあるフェンスのその向こうにある
四角の集合体。
辺りを見回していた譜都の横をすっと通り過ぎて後ろに下がっていく波原さん。
「ここって……」
今まで月に掛かっていた雲が晴れ、冷たい光が辺りを照らし出す。
一面に広がる黒光りする墓石。卒塔婆に枯れかけの献花と、かすかに香る線香の残香。
人魂が出てきてもまったく可笑しくないシチュエーション。
後ろに居る波原さんを振り返る。
「本当にここで合っているんですか」
お客様にふざけているんですかとも言えない譜都。
たまにからかわれることもあるが、波原さんはそんなことをするような性格だとも思えないし、いくら悪戯だとしても、ここまで引っ張ることは無いだろう。
5メートルほど前方にいる波原さんは、俯いていて表情は読み取れなかった。
「波原さん?」
譜都が話しかけても反応がない。
ふと、譜都に向かって走り出した。
そのまま、唖然としている譜都の首を片手で掴み、地面に押し倒す。
地面に思いっきり後頭部をぶつけ、鋭い痛みが走る。
「っっ!」
声にならない叫びをあげる譜都の上に乗って、両手を首に回す波原さん。
「ねえ、早くクツウから開放させてください、譜都クン?」
女子とは思えないほどの力で首を絞める波原さんの表情は、歪んだ狂喜で塗りつぶされていた。
必死に波原さんの指を引き剥がそうとするが、びくともしない。
もがけばもがくほど、逆に食い込んでいく指。
霞む視界、途切れる思考、体に力が入らない。五感が遠のいていく。
すべてが虚無に包まれるその一瞬前、霞む視界の向こう、波原さんの後ろに誰かが立っているのを譜都は気づいた。
「言わんこっちゃないな、譜都」
作品名:えすぱーと一般people! 作家名:yoshi