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そこにあいつはいた。

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「僕は勿論、室長も、松永さんも、課のみんな草薙さんを心配してる。勝手に心配するなとか、俺の気も知らないでとか思うかもしれない。そりゃ、僕たちは草薙さん本人じゃないから、草薙さんのこと全部なんか知らないよ。知らないけど、僕たちは僕たちの知ってる範囲の草薙さんが好きだし、尊敬もしてるし、心配なんだ。勝手にね」
 飯田はそこで言葉を切ると、文字通り怖いくらい真剣な眼差しで俺を見つめた。
「……リアルに目を向けなよ、草薙さん」
 骨格標本的ホラー男は、その恐ろしげなキャラにそぐわぬどこか優しい語り口で切々と言葉を継ぐ。
「本当は草薙さん、はっきりさせなきゃならないことがあるんでしょ。その結果を受け止める自信がないから、あんな物の怪に縋って逃げてるけど、……きちんと現実を見つめて、はっきりさせるところははっきりさせて、受け入れるべき所は受け入れなきゃダメだよ」
 正論過ぎる。あまりに。
 返すべき言葉が見つからないまま、俺が一歩後退った時だった。
 ゆっくりと、飯田が後ろを振り返った。
 薄暗い階段の上り口に揺れる、白いレース。
 そこに、あいつはいた。
 心なしか悲しげな眼差しを、俺に向けながら。