そこにあいつはいた。
次の瞬間、考える暇もなく、俺の左手はスイッチを押していた。
天井からぶら下げられた古くさい電灯が、唐突に四畳半の居室を無遠慮なほど明るく照らし出す。
体全体で呼吸しながら、ゆるゆると押し入れに目を向ける。
蛍光灯の光に照らし出され、その内部は不気味な陰影を纏う四隅まではっきりと見える。
はみ出した布団と、斜めに立てかけられたそば殻枕と、しわくちゃのシーツ。
そこにあったのは、それだけだった。
他には何もなかった。
中空に不自然な姿勢で浮いている右手にも、何一つ纏い付いていない。
右手を体の脇に下ろし、呆然と押し入れを見ながら、俺はそのまま数刻動けなかった。思考が完全にフリーズして、何をどうしていいのかすら分からなかった。
汗まみれの下着と小便まみれのパンツを取り替えて、電気点けっぱなしのまま冷え切った布団にもう一度潜り込んだのは、それから一時間以上も経った後だった。
作品名:そこにあいつはいた。 作家名:だいたさん