かえるの写真
そんな会話をしてから何日か後、私は信号待ちの合間にあるものを見つけた。
ふと視線をやった生垣の隙間に、鮮やかな緑が震えている。何かと思ってよくよく見れば、それは小さなカエルだった。
あんまり色鮮やかなので一瞬、捨てられた玩具かとも思ったが、けろけろと小さく声を上げたから多分間違いない。
私は即座に彼女の顔を思い浮かべた。
(写真を撮っておけば高屋さんにも見せられたのに)
そう言った彼女はどこか残念そうでもあった。無意識に手がポケットの携帯を探る。二つ折りの画面を開いてカメラを起動したところで、少しだけ躊躇った。
――こんな写真ひとつに自分は何を期待しているのだろう。
躊躇っているうちに横でかしゃりと音がして、我に返る。
見ると高校生くらいの男子二人が、携帯のカメラをカエルに向けていた。人懐こそうな顔の少年達は、ひとしきり画面に収まったカエルの姿に笑いあった後、こちらを見て「あっ」と声を上げた。
「すんません、邪魔しちゃって! 逃げないうちに次どうぞ!」
「……いや私は」
「おい、お前ちょっと邪魔だろ。こっちからの方がよく撮れるんじゃないの」
「あーほんとだ、すんません。はい、お兄さんこっちこっち」
他人の事なのに、しかもたかがカエルの写真の話なのにやたらと一生懸命だ。
結局押されるまま写真を撮り、一応の礼を言うと少年達はもぞもぞと居心地悪そうな、どこか照れた顔で笑った。
二人の屈託なさがなんとなく、名城さんに似ている気がして気が緩む。
勿論、顔は何処も似ていなかったのだが。