かえるの写真
「お礼とかいいっすよ、俺達もお兄さんが携帯出してなかったら気付かなかったし」
「梅雨になると声はするけど姿は見ないのが不思議だったけど、ちゃんといるんすね」
「そうなんですか。マンション住まいだと声も聞こえませんから、実感がないですが……」
珍しく他人と他愛ない会話をしている間に信号が青に変わった。
少年達は「じゃ、お仕事頑張って下さい」と実に愛想良く、手を振りながら歩道の無効へ消えていく。私もそれに「どうも。お気をつけて」と短く返して歩き出した。
歩きながら携帯の画面を開く。
丸い目を正面に向けてきょとんとした顔のカエルが、画面の中からこちらを見ていた。
「……こうして見れば、まあ確かに、愛嬌はあると言えなくもないか」
ぽつりと呟く、自分の声の響きが妙におかしくて小さく笑う。
今日の仕事がひと段落したら、彼女にこれを見せてみよう。彼女は笑うだろうか、それとも驚くだろうか。もしも他の同僚に知られたら、あの高屋がと驚かれたりからかわれたりするかもしれないが、構わない。
彼女が見せたかったと言ったものを、自分も見てみたいと思った。
そのことが不愉快でも怪訝でもなかったという事実が、今の私には何より尊く思えるのだ。
私は再び携帯を閉じると、鞄の一番奥にそれをしまった。
<完>