かえるの写真
先ほどの名城(なしろ)という女性と私の関係を一言で言えば、仕事のパートナーだ。
私は基本的に他人との接触を余り好まない。仕事中は別に頓着しないのだが、一歩離れてしまえば知己に名前を呼ばれる事さえ煩わしい。
けれど彼女に「高屋さん」と名を呼ばれるのだけはいつどこでも嫌ではなかった。
最初の頃はこの女性特有の高さと、彼女特有の明るさが滲む声に対して、僅かの不快以外は何の感慨も覚えなかった事を思えば不思議な話である。
私と彼女の関係は一言で表せるが、私達の仕事は一言で言い表せるものではない。
いつだったか、自分達の仕事と会社について「強いて言うなら秘密結社とか闇の組織とかですかねえ」と笑った彼女の言葉は、あながち的外れでも幼稚でもない。
かといって、我が社は別段悪事を働いているわけでもなければ正義の味方でもない。ただ、現代社会においては異質で異常であることは確かだった。一般の目に触れない領域に携わる仕事なのだ。
しかし法律には触れていないし、超法規的な扱いも受けてはいない。
ああ、でも超自然的ではあるかもしれないな、と今日は一面の花畑だった玄関を通り過ぎながら、私は小さく苦笑した。
ともあれ私と彼女の仕事は実に特殊で、けれど私と彼女の関係は実にありふれていて良好だった。
ありふれているという事も良好であるという事も、私にとっては異常で異質だったのだ。