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VARIANTAS ACT1 初戦

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 砂煙が上がり、足が地面に、ずしりとめり込んだ。
「FCSエンゲージ!」
 即座に戦闘態勢をとる。
 モニターに映し出される、武装の射撃視界。
 レイズはカメラであたりを見回した。
 辺りは不気味なほど静かで、風が吹きすさみ、砂埃が舞い上がっている。
 無線に通信。
「全部隊、降下完了」
 即座に布陣。レーダーに反応。IFFは友軍機。
 空軍の、HMA-h2E/F・ディープフォレストだ。
 数十機ものディープフォレストは、三機編成で編隊を組み、地上部隊の頭上を過ぎてゆく。
 それに遅れて、巨大な何かが、轟音と共に翔けていった。
 レイズは一瞬、それが何か理解出来なかったが、結論はすぐに出た。
 金色と純白の装甲。全身に装備された特殊兵装。その巨体。
 セカンドムーブを鎮圧したあの――
「ディカイオスだ……」


***************


 感覚を研ぎ澄まし、これから起こることに意識を集中させる。
 自分を中心に、編隊を組んで飛行する空軍のディープフォレスト。この中で一体何機が無事に帰還するだろうかと、彼は無意識に考えた。
 でも、彼はすぐに考えることをやめた。
 自分が、最大限の効力を発揮すれば。
 そうすれば、一機でも多くの味方を救うことが出来る。
 この機体を以てして。
「作戦空域到達」
 声に反応し、彼は大きく息をついた。
 高高度へ向け上昇するディカイオスのコックピット内で。
 彼の名はグラム=ミラーズ。階級は大佐。
 教本に載るほどの人物だが、その年齢は意外と若い。
 声の主は、彼のイクサミコ、エステルだ。
 彼は通信回線を開き、各機へ通達。
「ディカイオスよりスコードロン全機へ。各々展開後は、作戦空域の敵機を攻撃。殲滅後ポイントで合流する。行くぞ、ブレイク……ナウ!!」
 各スコードロンが、編隊を維持したままディカイオスの周囲へ散開。
 戦闘機動に入る。
 レーダーに敵編隊を捕捉。
 母艦は未だに、地平線の向こうに位置している。
 直接攻撃は出来ない。
「敵機捕捉、数250。敵は広範囲に散開しています」
 散開しているスコードロンが長距離空対空ミサイルを発射。ファーストストライク。弾着を確認した後、ソルジャーの群れとのドッグファイトに入る。
 そう、犬闘と喩えられる、死角の取り合いだ。
「エステル、母艦の撃破を最優先。先行する」
「了解」
 彼は機体のブースターを最大出力で開放。高度をさらに上げ、敵戦闘母艦へと向かっていった。




***************




 レイズは、爆炎の散る空を見上げたまま、空のかなたへ消えていくディカイオスを目で追っていた。
 対空レーダーに感。上空から敵機多数。
「来たぞ、スタイナー!」
「ああ、また後でな!」
 彼は操縦桿を握りしめて即座に戦闘態勢をとる。
「敵機接近」
 母艦から発進した艦載機――ソルジャーは、編隊を組んでレイズ達に肉薄してくる。
 “ソルジャー”は、ヴァリアント兵器体系の中で最も多く存在する、所謂量産下級兵士だ。
 たかが量産型、と侮ってはいけない。
 人の形でありながら、どこか甲虫を思わせるフォルムは、強靭な装甲の現れ。屈強な体躯は、それ自体が人工筋肉の塊であり、出鱈目な剛性とトルクを持つ。推進機関として搭載された慣性制御装置とフォトンドライブは、ニュートン力学を無視した機動を可能にし、その火力は重装HMAを裕に越える。
 ソルジャーは、それら“ヴァリアントとしての基本能力”を持った、ヴァリアンタスの尖兵だが、最も恐るべきは――
「敵艦載機出ました。レーダーコンタクト、数200。非常に多数」
 サラの声と同時に、レーダーが真っ赤になった。
「これが……全て敵……?」
 その物量だ。
「来るぞ、レイズ!」
 スタイナーの声で我に帰り、息を整える。
 火器を空に向けて構え、照準。
 上空20km、敵が高射大隊の射程内に侵入。次の瞬間、レイズ達陸戦部隊の後方に待機していた高射大隊が、地対空ミサイルを一斉発射。発射されたミサイルは空を真っすぐ上って行き、敵ビームカノンの有効射程外である敵機手前5kmで六基の子弾に分解。
 同時に、群れの中で無数の閃光が散った。
 敵機がビームカノンを一斉に発砲。一瞬、まるで指向性地雷の散弾の如く密度で放たれたビームの雨は、多弾頭ミサイルを容易に迎撃。金属ヘリウム製弾頭は、その小振りなサイズには見合わない巨大な火球を空に咲かせ、発生した衝撃波が大気を叩く。
 爆炎が晴れる。
 モニターに、空間を埋め尽くす敵機の群れが映った。
 ――撃ェ!!
 号令と同時に、レイズはトリガーを絞った。
 瞬間、両手の火器が火を噴く。
 高射大隊のミサイルをかい潜り、地上に降下した敵機は150機以上。
 敵機はまるで雲のように群れ、一つの波となって押し寄せてくる。
 対してソルジャー達は、各々が高速で機動しつつも、全体としての指向と統率は何一つ乱れず、まるで一つの意志を持った生き物の様に行動する。
 これこそが、ヴァリアントの真の恐ろしさ……独自のネットワークを用いた広域同時指揮通信システム。
 攻撃・防御・移動……。それら全てを最も高い効率で行ってくるのだ。
「スタイナー! 僕たちは高射大隊の壁だ! 何があっても抜かれるなよ!」
 レイズ機のすぐ横でスタイナー機が90㎜軽機関砲を撃ちつづける。
「解ってるよ! 来いこの野郎!」
 対空砲火の嵐を抜け、多数のソルジャーが地表へ降下。ソルジャーは、地面に脚を着ける事なく直角に軌道を変え、地面を高速でホバー移動してくる。
 火器を水平射。砲の散布界を敵機の群れに重ね、トリガーを引く。
 連射されるメタニウム弾。
 ヴァリアントの装甲外殻は、高分子複合素材という超高強度複合材だ。
 その強度は、通常の弾頭では貫通不能。ただ一つ、メタニウム製徹甲弾を除いて。
 その特殊弾がソルジャーの胸と腹を捉えた。
 バランスを崩し、レイズ機の足元に墜落するソルジャー。
 レイズはそのソルジャーを踏みつけ右手のライフルを連射し止めを刺しながら、左手の火器を群に向かって連射。
 突然、左手ライフルのボルトがロックする。
「左アサルトライフル、残弾ゼロです」
 彼はすかさず、右手アサルトライフルと腕部にマウントされた100㎜単装機関砲を同時に発砲。
 弾幕を張りながら、左アサルトライフルからマガジンを抜き、大腿部側面に装備されている予備マガシンを差し込んでリロード。
 敵からのミサイルとビームの降り注ぐ中、両腕を構えて再びトリガーを引く。
「敵、ビームカノン、注意してください」
 次の瞬間、敵からの一斉射撃が部隊に降り注いだ。
 無数のビームの雨。
 ビームはレイズのHMAのすぐ横を掠め、立て続けに数発のビームが着弾する。
「スタイナー!」
「気をつけろ! レイ……」
 突然、スタイナーからの無線が切れた。
「スタイナー?」
 レーダーから消える、スタイナー機の表示。
 同時に、数発のミサイルがレイズ機に迫った。




*****************




 巨大な推力を開放しながら、ディカイオスはさらに高度を上げて行く。