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Gothic Clover #05

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「あ、このトラップね、このぐらいだったら、ボク達みたいな人間には簡単に回避できるから、もう少し複雑なのにしておいた方がいいよ」

 ボクの心中を察してくれたのか、男の方が丁寧に教えてくれた。

「……クッ」

 ボクはナイフを構える。

「おいおい、そんなにイキがるなよ」
「てめぇラ、何者ダ!?」
「うーん、先に言っていいのかな」

 男の方はボリボリと頭をかく。というか家の中でぐらいはサングラスを外せと思う。

「俺は恵之岸歌劇団第5幕3番手の灰薔薇 棘実(かいばら とげざね)だ」
「!!!」
「コイツは最終幕1番手の石砕 歪実(いしくだき ゆがみ)。ほら、歪実」

 女の方、石砕さんはボクの方を向いてペコリとお辞儀した。

「それで、君は数ヶ月間罪久と同居していた『ネジくん』だ。当ってるかな?」
「……歌劇団の貴方達ガ、一般人のボクに何の用デスカ?」
「こっちの世界の事情を知っているならそれでいい。しかし、『一般人』ってのは間違っているな」
「…………」
「罪久から『裟刀を殺した面白い奴がいる』と聞いてね。別に興味なかったから放っておいたんだけど、罪久が殺された今、いざ君の事を調べてみたら驚いた。とんだびっくり箱さ。数々の事件の裏で活躍し、しかも団長の息子の元同級生で、瀬水の元生徒だとは」
「……瀬水を知っているんデスカ?」

 瀬水 傍嶺(せみず はたみね)元、家庭科教師。現、狂士。目玉を食べる殺人狂。

「ああ、最近になって恵之岸歌劇団に入団した人だよ。腕は……まぁ、こっち側にいる限り嫌でも上がるさ」

 逃げた後、どこに行ったのかと思っていたが……まだボクの世界に関係していたとは……。

「ねぇネジくん」

 考えごとをしている途中に灰薔薇さんが話しかけてくる。

「このお味噌汁暖めなおしていいかな? 俺はやっぱり味噌汁は熱めの方が好みなんでね」
「アア、電子レンジはあっちニ……って何勝手に食べているんデスカ!?」

 今更になってノリツッコミ。そんなことも構わずご飯を食べる2人。
 いや、一人は食べて無いか。歪実さんの方は口にマスクをつけたまま外そうとせず、目の前のニンジンのソテーと格闘している。
 ……なんか殺人者って、性格も変な人ばかりだな。

「で、ネジくん」
「ハイ?」
「ボク達は君に聞きたい事があるんだが」
「唐突ですネ」
「まぁ聞け」

 灰薔薇さんはレンジから味噌汁を取り出しながら言う。

「ネジくんさ、罪久を殺した奴について、心当たりない?」
「……こっちが聞きたいくらいデス」

 こういう事を聞いてくるということは、そっちも犯人を掴めてないということだろうか。

「うーん、じゃあ罪久何か言ってた? 『自分狙われてるわー』みたいな感じで」
「それもないデス。何も言わずに突如姿を消しましたカラ」
「そっか……」
「といウかそっちにも心当たりないんデスカ? 倶楽部の連中が殺ったというのハ、モウほとんど決定事項でしょウ?」
「いや、ただな……」

 灰薔薇さんは言いにくそうに頭をかく。

「『罪久を殺れる奴』ってのに全然心当たりがないんだ。これでも俺は長年こっち側に住んでいる。でも罪久を殺れる程ブっ飛んでる奴は見たことも聞いたこともないんだよ。あいつはあれでも団長が我が子の代わりに手間暇かけて創り上げた最高の舞台役者、『恵之岸歌劇団最終幕2番手、冷徹吹雪の喰臓罪久』なんだよ? そう簡単に殺られるタマじゃない」
「…………」

 じゃあ、なぜボクはまだ生きているのだろうか? 拮抗状態になるのが運命だったとでも言うのだろうか? 莫迦莫迦しい。

「だからネジくんに聞こうと思ったんだけどなぁ」
「すみませんネ。ボクも今、必死に調べている途中なんですヨ」

 その時、マスクをつけたままご飯を食べようとして試行錯誤していた石砕さんが急に顔を上げた。やっと食べる方法について何かひらめいたのかなと考えていたら、いきなり

「伏せろ!!」

 と灰薔薇さんが叫んだ。「エ、何故ニ?」とか言おうと思った途端、

 ボクの顔をかすめてクナイが飛んできた。
 ガスンとクナイは木製の柱に刺さる。

「影に恐怖し陰で死ね。光はおまえを照らさない」

 窓の向こうの闇から何かが聞こえる。……殺し文句?

「あーやっぱり見つかったか」

 灰薔薇さんは味噌汁を急いで飲み干すと箸を置いて立ち上がる。

「行くぞ歪実!!」

 歪実さんは惜しそうにご飯を見つめながら立ち上がる。マスク外せよ。

「それじゃネジくん、ごちそうさまでした」

 そう言うと2人は窓から外に飛び出した。ボクの家の天井からガタガタと音がする。きっと屋根で闘っているのだろう。
 しばらく物音が続いたが、そのうち静かになった。
 ……なんだったんだ?
 ボクは天井を見つめる。なんかまたしてもドッと疲れてしまった。ボクはクナイを柱から引っこ抜く。あー、穴になってる。
 さて、明日の学校の用意でもするか。明日は登校日だ。しかし授業はせずに全校集会だけをするらしい。教室はあの状態だし、生徒のメンタル的なことも考えれば授業はまだ無理だとは思うが、かったるいな。
 ボクはクナイを持ってみる。以外と重い。こんなのよく投げられたな。試しに投げてみたが、重くて的に当たらせるのが精一杯だった。
 当分の目標は、このクナイを投げられるようになることだな。
 やっと落ち着いたところで、ボクは日課のトレーニングを始めた。だんだん楽にノルマがこなせるようになったので、今日は回数を多めに。
 恵之岸歌劇団も犯人を特定できていないとは、少し意外だった。まぁ、あの様子だと倶楽部の方に犯人がいる確率は高いわけだが。でも、罪久って一体何者なんだ? ボクは罪久と一緒に生活しているだけで罪久を知ったつもりになっていた。しかし、いざ考えるとボクは罪久のことを少しも知らない。
 喰臓罪久、恵之岸歌劇団最終幕第2番手、冷血吹雪の喰臓罪久、か。
 ボクはナイフを投げる。ナイフは的の真ん中に突き刺さる。
 うん、もう寝るか。ボクは風呂に入る。明日も学校だし、今日はもう疲れた。
 ボクは風呂から出てすぐにベッドに横になる。
 そういえば夕飯を食べ忘れた。最近、あまり食べてないな。でも食欲もあまり無いし、無理して食べるのもどうかと思う。
 ボクはそのまま目を閉じる。
 喰臓罪久、倒鐘罰浩、
 ボクは絶対に犯人を見つけ出してやるよ。

 たとえそれが、自己満足だとわかっていても。

作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる