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Gothic Clover #05

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「おっはよ」
「……おはヨウ」

 ボクは掻太に手を軽く挙げて挨拶する。
 今日は登校日だ。ただし全校集会のみ。

「人飼ハ?」
「もういるわ」
「ヌフォオゥ!?」

 いつも通り気配がなかった。怖ぇ。
 ボク達はいつも通りのように振る舞って学校に向かう。学校の校門の前には案の定、テレビカメラが取材陣を張っていた。上空にはヘリ。ウザいなぁ。
 校門をくぐってそのまま教師に誘導され、ボク達は体育館に着いた。

「よぉ捩斬」
「ア、灘澄、先に来てたノカ」
「昨日は悪かったな、無理矢理付き合わせちまって」
「気にしてないヨ。ナイフは?」

 灘澄はズボンの辺りを手で示す。

「ン、そうカ。犯人はわかっタカ?」
「……いや、まだだ」
「ン、そうカ」

 ま、別に期待していないけど。しかし、この様子だと見七を殺した犯人の方は灘澄に任せた方が良さそうだ。その方が灘澄は精神的に安定できるだろう。でも、灘澄は『こっち側』に巻き込みたくない。できればボクが同伴したいのだが。

「でも捩斬、なんで俺にナイフなんて渡したんだ?」
「ン?」
「俺はただ犯人をつきとめたいだけなのにさ」
「アー、えーっト……」

 言えない。もしかしたら犯人は倶楽部の連中で、逆に殺されてしまう危険性があるなどと、とてもじゃないが言えない。倶楽部や歌劇団の存在を灘澄に知られるわけにはいかない。

「アノ、ほラ、人間を殺す奴って大抵狂ってるような奴ばかりダロ? もし灘澄がそいつに『お前が犯人だ』なんて言ったラ、その犯人が逆上して襲いかかって来るかもしれないジャないカ」
「でもそれぐらい……」
「武器とか持っテ」
「…………」

 どうやら納得してくれたみたいだ。

「わかった、じゃあこいつは預かっておくぜ」
「アア。それとだナ」
「なんだ?」
「何か新しい情報が入ったらすぐに教えてくれないカナ? ボクも情報が入ったらすぐに教えるかラ」
「なんで?」
「ただボクも協力したいだけサ」
「んー、でもこれは俺一人の問題だし……」
「イヤ、違うネ。考えてくれヨ。君にとって今回『自分の愛する人間が殺された』ケド、ボクにとっても『友人が殺された』んダ。同じぐらい辛いとは言わないが、ボクにも協力させて欲しイ」

 ボクはこの前の人飼の台詞を引用する。この台詞は再度聞いた今でも正しいと思う。正しいからこそ文句は言われにくいし、断りにくい。何より灘澄を『こっち側』に引き入れたくない。

「……わかったよ」
「そうカ、それは良かっタ。じゃあ早速だガ、ボクは君に情報を提供しよウ」
「 ? 」
「これは昨日の夜わかったコトなんだガ、見七のとは別で殺人事件があったダロ?」
「あのバラバラ死体のやつか?」
「あの事件の第一発見者は、見七ダ」
「………!!」

 灘澄は目を見開いた。

「登校途中に発見したらしイ。そしてそのまま110番、警察に通報シタ」
「…………」

 灘澄はガクガクと震えたまま頭を抱える。目の焦点が合っていない。瞳孔が開いている。

「どうしタ灘澄、大丈夫カ?」
「…………」
「何か、わかっタの──」
「なんでもない」
「──灘澄?」
「なんでもないなんでもないなんでもないなんでもないなんでもないなんでもないんだ。大丈夫だ。」

 ……見七のことでも思い出させてしまったのだろうか。だとしたら悪いことをした。やはりまだ落ち着いていないか。

「……そろそロ並ぼウ。全校集会、始まるヨ」
「…………わかった、わかった」

 ボクは人込みに向かう。

「……灘澄」
「…………」
「何かわかったラ、絶対ボクに言えヨ?」
「…………捩斬」
「ン?」

 ボクは振り向く。

「もう嫌になる時、『全てを捨てたくなる』時って、お前にはあるか?」
「…………」
「なぁ、答えてくれ」

 ボクは考えて、思って、迷って、答えた。

「……しょっちゅうサ」
「…………」
「でもボクは諦めナイ。嫌になっても捨てたくなっても諦めることはしナイ」

 なぜなら、ボクの世界は確かに存在しているから。

「…………そっか、そうだよな」

 灘澄は呟く。力強く呟く。

「捩斬」
「なんダ?」
「ありがとな」
「…………?」

 よく意味が解らない。
「どういう意味ダヨ?」と聞こうと思ったが、灘澄は既に遠くに行っていた。
 ……なんかボク、感謝されるようなことでも言ったかな? とりあえずボクも出席番号順に並ぶ。

「あー、捩斬来た」

 掻太が手を振る。同じカ行なので掻太はボクの前だ。
 桐首掻太。
 首廻捩斬。

「灘澄と何話してたん?」
「見七の事についてダヨ」
「あー、やっぱり灘澄もショックだろうなぁ。なんせ二人、付き合ってたし」
「……知ってたノ?」
「あれ、聞かなかった? 結構有名だぜ?」

 むぅ……知らなかった。ボクは学年のそういう色恋事について、どうも知識がない。

「別に興味は無いけどネ」
「ん、なんか言ったか?」
「イヤ、なんでもないヨ。それより、そろそろ始まるらしいヨ」
「……だな」

 校長が舞台の上に上がってマイクを握る。どうせまた下らない話だ、「大変悲しく思う」とかなんとか。そんな聞く気にもなれない話が終わるまで立っていなきゃいけないのか。辛いなー。
 ま、聞かなきゃ死ぬってわけでもないし、とりあえず
 シャットダウン

++++++++++

 ボクは下駄箱で掻太を待っていた。しばらくボク達のクラスが使えなくなるので、今のうちに荷物を取りに行ったのだ。あいつはあれでも作業は細かいから来るまで時間がかかるだろう。時間はお昼前の午前11時ぐらい。全校集会が終わってすぐに下校。ボク達は荷物の関係で残っていたので学校からは既に多くの生徒が下校していた。
 ちょうどボクが退屈のあまり脳内で一人ジョジョしりとりを始めた時、近くで足音がした。近付いて来る。

「あ、捩斬」
「……ヤァ、夕暮」

 足音の主は夕暮だった。背中にはギターを背負っている。けど油断するなかれ。中にはギターの他に銃刀法を完璧に無視した真剣、『紅金魚』が一緒に入っている。学校でしょっちゅう抜いている時点で既に犯罪者。一応刀は登録してあるらしいが。

「掻太待ちか?」
「御明答」
「ああ、やっぱり」
「夕暮はもう帰るノカ?」
「うん、まぁな。学校にいてもしょうがねぇし」
「確かにそうダ」
「捩斬」
「うン?」

 夕暮はボクを見つめて、神妙な顔つきになる。

「……ナニ?」
「……いや、やっぱりなんでもねぇや」
 何だろう? ま、本人が話したくなければ別に構わないけど。

「なぁ捩斬、今日の教師共見たか? 普段は生徒のことなんか考えてないくせにテレビカメラの前だと号泣だよ? まったくどういう神経してんのか一度斬り開いて見てみたいよ。しかも教頭なんか──」
「…………大丈夫カ?」
「──あん?」
「元気ねぇゾ」
「…………」
「…………?」

 きょとんとした目でボクを見つめる夕暮。顔が心なしか紅潮している。

「……どうしタ?」
「…………まさか捩斬が他人の心配をするとは思わなかった」
「そこカヨ」

 そこまでボクは冷血人間だと思われているとは。でもしょうがないか。実際に昔はそうだったし。
作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる