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Gothic Clover #05

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 倒鐘罰浩。
 幸福主義者。善良。純粋。好奇心旺盛。天然。髪も天然パーマ。茶髪。ふわふわ。くりくりな目。小柄。貧弱。背が高くなることが夢。ちょっとバカ。でも点数はとれる。常時笑顔。大好きー。ボクを「ネジくん」と呼ぶ。かつて実在していた存在。もう存在していない存在。バラバラ。グチャグチャ。

「…………」

 現在時刻午後2時25分。
 殺人事件により今日は休校。ボクはあの廃工場に来ていた。当然だが廃工場の出入り口には「KEEP OUT」のテープが張られ、中では人々が何やら作業をしている。もちろん、ボクはそれを見るためだけにここにいるわけじゃない。ある人を待つためだ。

「おう、待たせたな」
「イエ、こちらこそ忙しい中すみまセン」

 狭史さんだった。今日の朝に携帯で連絡をとっていたのだ。ボク達は廃工場から少し離れた階段に座りこむ。

「缶コーヒー飲むか?」
「ア、いいデス」
「若者が遠慮すんな」
「狭史さんも若いじゃないデスカ」
「でも俺の方が年上だ」
「……じゃあいただきマス」

 ボクは狭史さんから缶コーヒーを受け取る。

「で、なんだ話って」
「…………狭史サン」
「ん?」

 ボクは単刀直入に言った。

「ボクに事件の情報を下サイ」
「…………」
「どんな些細なものでも構わなイ。情報ヲ、ボクに下さイ」
「…………」

 直入すぎただろうか? しかし、これ以上遅くなるわけにはいかない。より疾く、より正確に、核心に近付かなければならないのだ。ボクの、世界のために。

「……ちっ。捩斬」
「ハイ」
「俺が、なんで警官なんてのになったか、話たっけ?」
「……イエ」

 狭史さんの過去か。ぶっちゃけそんなのどうでもいいが、ここは聞いておいた方が良さそうだ。

「昔な、昔って言っても俺が高校生の頃だが、俺はその頃、かなり荒れてた」
「荒れてタ?」
「いや、荒れてたって言うより憎んでたんだな、世の中に。当時の俺の親が屑みたいな人間でさ、親に感謝しているような良い子には悪いが、俺は親のこと憎んでたね。で、学校の教師もまたカスばかりでさ、俺は学校も憎んでたね。いや、学校だけじゃないな。俺は、全部憎んでたのかもしれない。俺の住む世界そのものを」
「…………」

 それはそれは……決して思い当たるところは一切無いとはとてもじゃないが言えない話だった。

「でもさ、ある日、その世界が歪んだんだよな」
「歪んダ?」
「親が殺されたんだよ」
「…………」
「親が殺されて、俺は初めて気付いた。俺の世界は、何かを憎むことによって、保たれていたってな」

 憎しみによって保たれる世界。憎しみの連鎖こそが、世界の均衡を保つ、か。皮肉だが、そういう人間は多いのかもしれない。

「なんつーか、恐怖だったぜ。何せ、空白なんだよ、自分の感情をぶつける対象がいなくなっちまったんだ。空白だぜ? どうしようもねぇ」
「空白……」
「だから、俺は今度はその感情を親を殺した犯人にぶつけようとした。俺の世界を返せってな」
「つまリ──」
「そう、お前らと全く同じことしてたんだよ。しかし、一向に犯人は見つからない」
「…………」
「そこで、犯人を見つけてくれたのが、おやっさんだ」
「…………」
「すごかったぜ。頭がめっちゃキレんのなあの人。あっと言う間に見つけちまったよ。おやっさんは、俺の世界の恩人みたいなもんだ。そして同時に思った。ああなりたい、てね。俺もおやっさんみたいになって、他人の世界を救いたいってね。……まぁ、もっとも今はおやっさん、どっか行っちまったんだけどな………」

 おやっさんこと、奏葉 坂造(かなは さかぞう)。彼は、ボク達が殺した。まさかあの殺人鬼が、狭史さんの世界にとってこんなに重要な存在だったとは。知らぬが仏。あの時に何も言わなくてよかった。

「だから捩斬。お前の気持ちはよくわかる。でも……」
「子供の出る幕じゃないとデモ言うつもりデスカ?」

 やっぱりこう来てしまうのだろうか。

「いや、最後まで聞け。お前の気持ちはよくわかる。でも、俺は『表面的に堂々と』協力は出来ない」
「……?」
「機密保持とかいろいろあるからな。だから、俺は今からある封筒を『なくす』」
「!?」
「中には事件に関する情報書類が詰まった大事な封筒だ」

 狭史さんは鞄の中から茶色い封筒を出してボクの横に置く。

「お前は、俺のなくした封筒を偶然拾った。いいな?」
「……最高過ぎますよ狭史サン」

 ボクは封筒を拾って立ち上がる。

「ありがとうございマス狭史サン」
「礼なんか言うな。お前はあくまでも偶然、拾っただけなんだからな」
「……じゃア、失礼しまス」
「おう、もう2度と来んな」

 ボクは階段の下へ。狭史さんは上へ。

「ああ、それともう一つ」
「? 何ですカ?」
「やるからには最後までやれよ」

 そう言って、狭史さんは現場に戻って行った。

「……何ヲ今更」

 もう諦めるポイントは過ぎている。今更、やめるわけにはいかない。
 さて、ボクも家に戻らなくては。ボクは飲み終わったコーヒーの空き缶を蹴り飛ばした。

 世界を救う、か
 まるでヒーローだな
 でも、やるしかねぇだろ、トラブルメーカー

++++++++++

 家に帰ったら、玄関の前に灘澄がいた。

「……よっ」
「……ヨッ」

 軽くびっくり。

「ちょっといいか?」
「構わなイ、中入れヨ。コーヒーぐらい御馳走してヤル」
「………悪い」

 ボクは玄関の鍵を開けて、トラップを解除しながら灘澄を居間のイスに座らせた後に、ストーブを点けた。

「コーヒーにミルク入れル?」
「ああ、頼む、あと砂糖も……いや、やっぱ無し。何も入れないでくれ」
「……いいのカ?」
「今はブラックな気分なんだよ」
「……そうカ」

 コップ二つのブラックコーヒーを机に置いて、ボクは灘澄と対面する位置に座った。まずはコーヒーを少し啜る。
 そして両者沈黙。コーヒーを啜る音が時々居間に響く。
 コーヒーがカップの半分ぐらいに減って少し冷めた頃、

「……苦いな」

 灘澄が唐突に呟いた。

「ミルク入れるカ?」
「いや、この苦さがいい」

 またコーヒーを啜る。

「美那、死んだだろ?」
「…アア」

 周知の事実。受け止めるしかない現実。

「俺……黙ってたんだけど──」
「なんダ?」
「──俺と美那、付き合ってたんだ」
「…………」

 別に対して驚かなかった。そんな雰囲気は最近ちょくちょく見られたし、いつの間にかお互いに下の名前で呼んでいる。

「いつカラ?」
「夏休みが終わった頃ぐらい」
「……見七が死ぬまで続いていたノカ?」
「死ぬまで続いてた。死ぬまで好きだった」
「……9月から12月までの3ヶ月カ……短いナ」
「…………ああ、短か過ぎる」

 灘澄はそう言って、静かに泣き始めた。おいおい、勘弁してくれよ。

「なんでかなぁ……」
「…………」
「なんで死んじまったかなぁ……」
「…………」
「好きなのになぁ……」
「…………」
作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる