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Gothic Clover #05

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 喫茶店、March hairにてボクは人飼と掻太から情報をもらっていた。

「こう、ね、頭部をぐしゃっと砕かれた感じ……」
「それダケ?」
「それだけ。他に外傷は一切無いのよ……」
「もう血と脳髄が飛び散って酷いもんだったぜ」
「見たのカ?」
「強行突破」
「……そうカ、現場はどこダ?」
「1‐4、うちらの教室だよ」

 2人の話によれば、朝、教室に行ってみたら既に教室は警察で一杯だったらしい。発見者は学校の教員。発見時刻は7時半。校内で生徒が殺されたということで今日は生徒は全員下校。なので2人はそのままMarch hairに来たとのこと。

「死亡時刻も7時ぐらい。殺されてすぐに見つかったみたいなの」
「他に情報は無いのカ?」
「……うん」
「俺達なりに調べてみたんだけどさ、うちの学校の生徒って線は薄そうだわ」
「なんデ?」
「校門前に警備室があるだろ? その警備室にいる人に聞いてみたんだけどさぁ、どうやら7時以降に校門から出た生徒は一人もいない、つまり7時以降の学校に生徒は誰一人もいなかったってことらしいんだ。見七以外はね」
「じゃア犯人は……教師?」
「……そうらしいわ」
「…………」
「しっかし酷いよな。頭を一撃で殴って跡形も無く粉々だぜ? ある意味優しい殺し方なんだろうけどよ」

 頭部を素手での一撃で粉砕…そんなことできる連中は歌劇団か倶楽部の奴等しかいない。この事件、やはり双方が関わっているのだろうか?

「……どうして殺されちゃったんだろう」
「ン?」
「どうして美那ちゃん、殺されちゃったんだろう……」
「……サァ? またいつものようにどこかの殺人趣味の狂人じゃないのカナ?」
「…………」

 黙ったままの人飼。やはりショックはないとはいえ、さすがに悲しいのだろう。ボクだって悲しい。でも、それを表現するスキルはボクには無い。
 カラン
 ドアのベルが鳴る。

「やっぱりここにいやがった。」

 真棚 狭史(またな はざし)さんだった。今日はいつものようにスーツに身を包んでいた。

「アレ、狭史さんもココで昼食ですカ?」
「いや、今回は仕事だ」

 ボク達の隣りに座る狭史さん。なんだか深刻そうな面持ちだ。

「掻太、てめぇに2、3質問がある」
「あ?」

 何だろう、事件に関係したことだろうか?

「被害者の携帯を調べたところ、メールボックスで一番新しいメールにお前の名前が入っていた」
「……ああ、あれですか」
「内容は『お前の生徒手帳を持っているので取りに来て欲しい』というもの。それに対してお前は『明日渡してくれ』と答えている。間違いないな?」
「はい、確かにそう送りましたよ」
「時間は?」
「えーっと、6時か6時半ぐらいだったっスね」
「ん、その後に被害者と話したりしたか?」
「……いや、そのまま帰りました」
「ん、OK、わかった」

 いろいろとメモをとりながらイスから立ち上がる狭史さん。

「それだけ聞きたかった。邪魔したな」
「あ、あのー狭史さん」
「なんだ掻太」
「俺の生徒手帳、返してもらえませんかね?」
「んー……」
「あ、もしかして証拠品になってて無理?」
「いや、違うんだ」
「? ……じゃあなんスか」
「いや、なんつーか……無いんだよ。お前の生徒手帳」

 狭史さんの言葉に掻太も含めてボクと人飼も驚いた。

「メールによると被害者が持っているはずなんだが、現場のどこを捜しても無いんだよ」
「え、ちょっとそれ困るんですけど」
「まぁ、見つかったとしてもしばらくこっちの手元かな?」
「そんなぁ〜」
「悪いな、用が済んだら返してやるよ」
「オイ掻太」
「なんだ捩斬?」
「なんでそんな重要情報ボクに言ってくれなかったンダ?」
「いや……関係ないと思って」
「大有りダ。それは見七は6時半までは生きてタ、つまり殺されたのはその後だってことじゃねぇカ」
「なんだ、お前らまた首突っ込んでんのか?」

 狭史さんはボク達を睨む。

「一応、警察側の意見として言っておくが、あまり迷惑かけないでくれないか? お前らがこうやって俺達の周りを──」
「友達が死んだのよ」

 人飼の一言。
 それはまるで、ずん、と身体の中に鉛を投げ込まれるような一言だった。

「つい最近まで普通に話していた友人が、頭を粉々にされて死んだのよ。跡形もなく粉々よ、わかる? それを知って、黙っているだけの私達じゃないわ」
「…………」

 そうだ、ボクはもう、こんなのを見た上で黙っていられるボクじゃない。

「……ちっ」

 狭史さんは小さく舌打ちすると「……勝手にしやがれ。」と小さく呟いた。

「よっしゃあ!」
「ただし! あまり迷惑かけんじゃねぇぞ」
「はい!」
「…ケッ。じゃあな」

 そう言って、狭史さんは出て行こうとして…

「何も注文しないわけ〜?」

 詩波さんに捕まった。

「いや、今日は仕事だし──」
「うわ酷っ!! いつからそんな冷血残酷人種になったわけ!?」
「勘弁してくれよ。この後また雑用が待ってんだよ」
「私より仕事を選ぶわけ!?」
「おう」
「即答かよ! このヤローいつからそんなにSになったんだ!! このドS〜」
「ツッコミにくいネタを言うな」
「あ、私Mじゃないよ? そんな趣味ないし」
「俺にもねぇよ」
「あ、でも愛する人のためなら私Mにもなるわ! だから私…いきます!!」
「おう、宇宙の果てにでも一人で勝手に行って来てくれ」
「わぁぁぁぁぁぁん! はーくんがノリ悪いよ!!」
「ノリが良かったら俺、今頃何やってんだよ」
「そんなはーくん…………子供の前でそんな事言わせちゃっていいの?」
「顔を赤らめて変なこと口走ってんじゃねぇ!!」

 うわー、あの狭史さんが困ってる。詩波さん恐るべし。

「……捩斬」
「なんですカ狭史サン?」
「助けてくれ……」
「迷惑かけないで下サイ」

 先程言われたことを、そっくりそのまま返してやった。

++++++++++

「ただいマ」

 家に帰った。
 罪久がいない空間。罪久がいた空間。
 クソッ、ドラえもんがいなくなったのび太君かよボクは。
 ボクは居間のストーブを点けて上着とマフラーをハンガーにかける。
 お湯を沸かしてテレビをつけて、ソファーに寝っ転がる。疲れた。
 一言で言えばそんな感じだった。考えることに、行動することに、思うことに、生きることに、疲れてしまった。

「世界を維持すんのっテ……難しいナ」

 それはどっちの世界にも言えることなので今更なわけだが。
 いっそ終わらせてしまおうかとボクは思う。今ここで終わらせれば、『ボクの世界』は『完全に崩壊する前に終わる』ことができる。
 しかし、ボクは、考えなくては、ならない。
 わかっている。ボクにはこの事件を考える義務がある。
 考えろ、思考しろ、錯誤しろ、気付け。何か、何でもいいから気付かなくては。
 罪久と見七の死。殺害方法が2人とも違うから、それぞれ別の犯人だろうか?
 とにかく、絶対に犯人はつき止めてやる。もしかしたら昔に罰浩を殺した奴に会えるかもしれない。どちらにしろ歌劇団か倶楽部の連中の可能性が高い。
作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる