Gothic Clover #05
「だから、お願い。私のために、生きていて欲しいの。こんなに壊れた世界だけど、後書きみたいなつまらない世界だけど、だからこそ、私はあなたと生きたいの」
「………ナァ、人飼」
「何? 捩斬クン」
ボクは人飼に頭を埋めたまま質問する。こんな格好は恥ずかしかったが、こんなぐちゃぐちゃの顔を見られるのはもっと恥ずかしかった。
「ボクは自分でもわからないことを質問するんだガ、構わないカイ?」
「ええ」
ボクは一呼吸置いてから、人飼に質問する。ずっと昔から不思議だった、ボクの人生最大の謎だ。
「ボクは──間違っていたかナァ」
思えば、ずっと間違い続けてきたのかもしれない。選択を間違って、方法を間違って、感情を間違って、存在を間違って、世界を間違って……
「ボクは間違っているのかナァ」
せめて、それだけでも確認したかった。
人飼はそんなボクに「あのね」という。
「人生に『間違い』なんて物は無いわ。たとえ他の選択肢を選んでいたって『正解』に辿り着けたかはわからない。そこにあるのは結果だけ。だから私達は望んだ結果になるように、原因を作り続けなきゃいけないの」
「…………チェ」
ボクは毒づいた。
「キミは狡猾ダ」
「それは知らなかったわ」
「キミは残酷ダ」
「それはもう知ってるわ」
「キミは──」
「……何?」
「──……イヤ、何でもナイ」
カーテンがそよぐ。どうやら窓は開いているようだ。風がボクの頭を撫でる。いや、撫でているのは人飼だった。
「ナァ、人飼。最後の質問ダ」
「なぁに、捩斬クン」
これから生きるにあたって、とても重要なことではあるが、果たしてこれは他人に聞くべき問題なのだろうか?
「ボクは、どうやって生きるべきなのかナァ」
わからないのだ。何をすればいいのか。自分が何をしたいのか。
「……捩斬クン、日常は嫌い?」
「ツマラナイ」
「本当に?」
「…………ごめん、嘘だ」
元はと言えば、ボクの世界が面白くなったのは人飼のおかげだった。
「楽しかったよ。人飼のおかげで、みんなのおかげでとても楽しかった」
人飼は「そう」とだけ言って笑った。初めて見る表情だった。
「でもみんなはもういない」
「私だけじゃ不満?」
ボクは人飼を見る。
あーあ、ホント、ボクは何をしているのだろうか。
このままボクは生き続けたとしても、きっとボクはこれからも絶望するだろう。
何度も悲哀するし、何度も後悔する。
何度も逃げるかもしれないし、何度も「死にたい」と呟くのだろう。
そしてまた何度も左手首にカッターの刃を埋めるのだろう。
それでも、生きたいと思ってしまったのは、罪なのだろうか? ボクは安心できるのだろうか?
少なくともボク達は決して「幸せになりたい」だなんて願ってはいけないのだろう。
そんなことを考えても、ボクの世界と人飼の世界はまだちゃんと回転しているわけで、ボロボロのくせに止まってなんかくれなくて、それでもボクは自分の世界も他人の世界も壊したくないわけで。
下らなくも笑えない、そんな人形劇は当たり前のようにつまらなくて。
そんなこんなでボクはただ、世界に対して呟くのだった。
「面白くなってきやがった」
黒白詰草 最終話 了
これにて完結
作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる