Gothic Clover #05
掻太は、ゆっくりと目をつむった。
「そうか……てめぇが、そうなのか……」
掻太はボクにもたれかかりながら、地面に倒れる。
「お前が……そうなのか─────捩斬」
掻太は最後にそう言って、死んだ。
「…………」
ボクに殺された。
ボクが殺した。
友人であるボクに殺された。
友人であるボクが殺した。
ボクは、友達を殺してしまった。
かけがえのない友達だった、掻太を殺してしまった。
「人飼ッ! ……グァッ」
ボクは人飼のところに向かうが、肋骨がミシリと痛む。どうやら折れているらしい。ヘタしたら肺に刺さっているかもしれない。
ボクは倒れるが、這って人飼の元に行く。
「ぐぁッ、クゥッ」
震える手でナイフを握り、人飼をイスに縛りつけているロープを切った。
「捩斬クン!」
人飼はイスから立つとボクを抱える。
「ヒ…と…飼」
ボクは人飼の顔に手を伸ばす。その顔は、暖くて濡れていた。
もしかして、泣いているのか?
泣く? キミが泣くだって?
「何泣いてんダヨ」
「……」
「どうしタ? キミが泣くなんて珍しいナ。明日は雪カナ」
「……」
人飼は泣いている。静かに泣いている。
「…………ハッ。下らないナァ。下らないシ笑えナイ」
「…………」
「本ッ当につまらなイ。ハッ、つまらねぇなァ! ハハッ、ハハハハッ」
ボクは、
ボクは、笑っていた。
笑う? ボクが笑うだって?
ありえない。
ありえないと思っていた。
世の中が愉快だと思えなかった。だから笑わなかった。今も愉快じゃない。むしろつまらない。死んでしまいたい気分だ。
それでも、ボクは笑っていた。笑いたかった。
ボクは笑う。笑う。笑う。笑いながら泣く。
「ハハッ、カハハッ、ハハハハハハハハッ」
もう意識が限界だ。朦朧としてきた。眠い。
ボクは人飼の顔をやさしく撫でる。
「ハハッ、ホント、世界は狂っているヨナ」
狂っている。
曲がっている。
歪んでいる。
捩れている。
それこそ、壊滅的に。
「クアァ、カハッ、ハハハハッ」
そろそろヤバい感じになってきた。ここまで自分の身体がダメージを負ったのは初めてかもしれない。
意識が遠のく。
「……ハッ」
結局ボクは、生き残って何がしたかったのだろうか?
友人を殺したかったのか、それとも人飼を救いたかったのか。
「それとモ、失いたくなかったのかナ」
何を?
わざわざ考えるのも、下らないしつまらなかった。
視界が霞む。
ああ、そろそろか。
ボクは残った右目で人飼を見る。
ああ、なんて黒いんだろう。
なんて、澄み切った黒なんだろう。
暗く黒くフェードアウトしていく世界で、真っ黒なキミだけが、はっきりと確認できた。
作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる