Gothic Clover #05
空中で回転するボクを、さらに掻太は蹴り下ろす。
「グアッ」
ボクは今度は地面に伏した。視界に掻太の足が迫る。
ヤバい。
「オラよっ」
足がボクの鼻を砕く前にボクは急いで転がって逃げる。
そして立つと同時にナイフを投げた。でも掻太はそれを軽々とよける。
「カハハッ そろそろ理解しろよトラブルメーカー。てめぇと俺の戦力差ってのは、そんな刃物でどうにかなるようなモンじゃねーんだよ。俺はこっち側じゃあトップクラスだし、てめぇ等のフィールドの連中だなんて動きが止まって見えるんだよ!」
「ヲイヲイ、時を止めてこの程度かイ? ディオ様だってもうちょっと頑張ったゼ」
ボクはホルダーから新たにナイフを引き抜く。
「まだわっかんねーのか? しょーがねーなぁー」
掻太はボクに素早く近付く。ボクはナイフを振るが、その腕ごと掻太は掴み、ボクを投げ上げる。空中でボクはナイフを掻太に向かって投げるが、掻太はやはりそれをよける。そして掻太は落下するボクに拳を打ち込む。
「────ッ!」
直前に腕でガードしたが、そんなもので緩和されるような衝撃ではなかった。
痛い。
まるで内臓が燃えているように熱い。
「グゥッ……ゥッ」
「くははっ」
掻太はボクの髪の毛を掴んで持ち上げる。
「これで理解したか? ん?」
「…………」
「もうちょっと、後悔してみるか?」
そう言って、人差し指と中指を立てた指を掻太は、
ボクの左目に突き刺した。
「アアアアアァアアアァアアァアァアァアァァァアアァァァア!!」
激痛がボクの左目を襲う。
「ぎゃははははははっ! 少しは後悔したかよ!?」
掻太はボクを投げ飛ばす。ボクは痛みに悶えたまま、人飼の縛られているイスまで飛ばされた。
「ぎゃはっひゃはははははははははははははははははははははははははッ!」
「アゥゥ、ゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ」
ボクは左目を触って確認する。
血が出ている。痛くてまぶたを開けない。顔の内部の左半分を激痛とは別に、ぐちゃぐちゃとした気持ち悪い感触がある。
多分、潰れている。
ボクは残った右目で横にいる人飼に目をやる。人飼は相変わらず虚ろな目をしたままだった。
「……ナァ、人飼」
「…………」
ボクは前で笑い狂っている掻太を見据えながら人飼に尋ねた。
「ボク達、死ぬのカナ?」
左目が刺すように痛い。焼け石のように熱い。鉛のように重い。
「ボク達ハ、友人に殺されて死ぬのカナ?」
「…………」
人飼は、ただ黙っただけだった。
「さぁて、後悔も絶望もしたところで、殺されるとするかい捩斬?」
掻太はボクの胸ぐらを掴むと、引き摺って屋上のフェンスにもってくる。
「んじゃ、友人の死に絶望した捩斬くんは、絶望のあまり飛び降り自殺してしまいましたってなシナリオでよろしく」
「…………」
やはり、ボクは死ぬのだろうか。世界を掻太に破壊された挙句、ボクもこれから破壊される。
もういいや。
こんなボロボロの世界、存在したって意味がない。前からボクは死んだ方がいいと思っていた。
存在したって他人に迷惑をかけるだけだ。
生存したってろくなことなんて一つもない。
だから死んでも構わない。
どうせ何度も自分で殺そうとした命だ。最後に友人に殺されるのも、悪くない。
…………。
だから、人飼。
最後に言っておきたいんだ。
ボクは、キミ達のおかげで気付けた。見七や灘澄、夕暮には言い忘れたけど、ボクはキミ達のおかげで「ボクが生きようと思う理由」が見つかったんだ。でも、それが今の世界なんだから笑えないよな。
ボクは人飼を見る。
だから、言っておきたいんだ。
「ありがとう」
ボクは、充分楽しんだ。
ありがとう、人飼。
掻太がボクを見据えて笑う。
ああ、そろそろ死ぬな。
ま、最後に言いたいことを言えてよかったさ。
それじゃ、
さようなら。
「死んじゃ駄目っ!」
人飼が何かを叫んだ。
掻太は、手を放した。
作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる